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一覧に戻る 17 57 51喜緑江美里(C.V.白鳥由里) - ハレ晴レユカイ~Ver.喜緑江美里~ 18 07 32近藤水琴 (阿澄佳奈)、チッソクノライヌ (能登麻美子) - 水琴と歌おう! / ワンウェイもちろん片想い(カラオケ) 18 11 11おさかなペンギン(井上喜久子 岩男潤子) - おさかなペンギンのテーマ (OSAKANA-Mix) 18 15 34倉内安奈 (植田佳奈) - 恋心 18 19 42榎本温子 - Be My Angel 18 23 47おみむらまゆこ 18 26 16織部麻緒衣 (金田朋子) - 青い鳥 18 30 31ゆい (喜多村英梨) - エプロンだけは取らないで! 18 34 25水瀬伊織 (釘宮理恵) - My Best Friend (REM@STER-B) 18 37 22こしみずあみ 18 41 45沢城みゆき - 夢咲きGarden 18 46 19新谷良子 - CANDY☆POP☆SWEET☆HEART 18 50 28鈴木真仁,桜井智,赤土眞弓 - チャチャにおまかせ 18 54 28ROCKY CHACK - リトルグッバイ 19 00 45TETSU - 炎のさだめ 19 04 04田中真弓 - デイドリームジェネレーション 19 08 19Minori Chihara - Yuki, Muon, Madobe nite. (Program Hack Remix) 19 12 46津野田なるみ(伊集院レイ) - 透明な仮面 19 17 36緒方恵美、岩男潤子、丹下桜、野上ゆかな、池澤春菜、手塚ちはる - Whisper Blue 19 22 14とよさきあき 19 26 16中川翔子 - 空色デイズ 19 30 30ガンダムガールズ - TRUST YOURSELF 19 34 30ぬらりひょんのまご 19 38 51ロイ・マスタング(大川透)、リザ・ホークアイ(根谷美智子) - 雨の日はノー・サンキュー 19 42 43桃月学園1年C組feat.一条さん(野中藍) - ルーレット★ルーレット 一条さんver. 19 46 24林原めぐみ - MIDNIGHT BLUE 19 51 57辻本夏実(玉川紗己子)、小早川美幸(平松晶子) - 100mphの勇気 19 56 56TAMAGO - 着メロは歌わない 20 01 18べたーまん 20 02 46ほりえゆい 20 07 44坂本真綾 - しっぽのうた 20 10 28JAM Project - 疾風になれ 20 14 19333 わたしにできること 20 18 33若本規夫(ビクトリーム) - ベリーメロン~私の心をつかんだ良いメロン~ 20 21 08335 続・溝ノ口太陽族 JAPAN 20 25 27340 比翼の羽根 20 30 11Scoobie Do - 茜色が燃えるとき 20 35 39348 ハナノイロ 20 39 45600 FIND THE BLUE 20 44 58アンティック -珈琲店- - 覚醒ヒロイズム ~THE HERO WITHOUT A "NAME"~ 20 49 15羽入(堀江由衣) - なのです☆ 20 53 46607 オレンジ 一覧に戻る
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第1章 消失前夜 わたしは世界を改変する。そして、改変後すぐに彼によって世界は再改変される。しかし、再改変後の世界がどうなるかは分からない。『再改変後のわたし』が同期化を拒むからだ。なぜ未来のわたしは同期化を拒むのか。わたしはその訳をうすうす感づいていた。 世界改変後に、わたしはいないのではないか。 同期化をすれば未来を知ることになる。当然、わたしの寿命もわかってしまう。 世界改変によって情報統合思念体を抹殺したわたしにそのまま観察者としての役割を任せるとは到底思えない。間違いなくわたしは、処分される。未来のわたしは知られたくなかったのではないか。わたしの最期を。 ◇◇◇◇ 授業が終わると一目散に部室に向かうため、部室に来るのはいつもわたしが最初。そして、2番目に彼が来ることを望んでいる。 今日もわたしが一番。1人、部室の片隅で本を読んでいる。 「やあ、どうも」 二番目は古泉一樹。今日はハズレ。 「長門さん。こんにちは」 古泉一樹はにこやかに微笑み、わたしに近寄り、小さな声でわたしに話す。 「長門さん。近日中に何か大きな事件が起こるのではないのですか」 「………」 「最近、あなたたちヒューマノイドインターフェイスの動きが活発化しています。また、朝比奈さんたちの組織のエージェントも続々とこの時間帯にのりこんできています。その数は涼宮さんが閉鎖空間を発生させた時に匹敵します。 長門さん。何か知っているんですね。教えてもらえませんか。おそらく、数日後、いや早ければ今日中にも何か世界を揺るがすような大事件がおこるはずです」 「わからない」 嘘ではない。本当にわからない。わたしは適切な回答を伝えることはできない。 「なぜです。涼宮さんがらみなのでしょう?我々機関とあなたたちとは利害が一致するはずですが」 「あなたには関係のないこと」 わたしは何も教えるつもりはない。 古泉一樹は笑顔を作り、 「わかりました。聞かないことにします」 と言った。 わたしは本を開く。しばらくの沈黙の後、朝比奈みくるが入ってきた。 朝比奈みくるは涼宮ハルヒの命令に従い、メイド服に着替えるのが日課。涼宮ハルヒは朝比奈みくるにメイド服を着せることにより、涼宮ハルヒの認識する『一般的な学校のクラブの部室』とは異質な雰囲気を作ろうとしている。 朝比奈みくるが着替えを終え扉を開けると、外で待っていた古泉一樹と一緒に、彼が入ってきた。 「キョン君。すぐお茶煎れますね。」 「ええ。ありがとうございます。」 朝比奈みくるはうれしそうにやかんでお湯を沸かし始めた。 彼はお茶という飲み物を好む。お茶は99%が水分であり栄養価はほとんどない。しかし、お茶には物理的に説明できない効果を発揮するようだ。わたしにはそれが何か理解できない。人間の行動を理解するのは難しい。 「ゲームでもしませんか」 古泉一樹は彼にそう言うとTRPGのボードを取り出した。ゲームは有機生命体の不確実性を顕著に示すもの。有機生命体には『勘』というものがある。この『勘』の正確性を競うものがゲーム。例えばオセロ。このゲームは白と黒の石を置いていき、最終的にどちらの石が多いかで勝敗を決める。オセロの配列パターンは10の58乗通りしかなく、数学的には必ず先手黒が勝つ。しかし、有機生命体のである人間は10の58乗通りの配列パターンを記憶できる能力はなく、勘で石を置く。よって同じ相手とオセロをやっても毎回結果が変わる。わたしはいつも彼を応援している。古泉一樹に負ける姿を見たくはない。しかし古泉一樹は有機生命体特有の『勘』という能力に長けている。彼に勝ち目はない。今日も劣勢だ。仕方がない。わたしは今回も彼が勝つように情報操作を行う。 ドン 勢いよく扉が開く。 涼宮ハルヒが入ってきた。扉を閉めるなり 「クリスマスイブに予定ある人いる?」 満面の笑み。 「予定があったらどうだってんだ。まずそれを先に言え」 涼宮ハルヒは彼のもとに近寄る。 「ってことは、ないのね」 彼は黙り込んだ。 全員の予定を聞いて回り、涼宮ハルヒは宣言した。 「そういうことで、SOS団クリスマスパーティの開催が全会一致で可決されました。でさ。こういうのは雰囲気作りから始めるのが正しいイベントの過ごしかただわ。この殺風景な部室をもっとほがらかにするの。あんたも子供の頃にこんなことしなかった?」 「するもしないも、後もう少ししたら俺の妹の部屋がクリスマス仕様になる。しかも妹は、未だにサンタ伝説を信仰しているようだが」 「あんたも妹さんの純真な心を見習いなさい。夢は信じるところから始めないといけないのよ。そうでないと叶ものも叶わなくなるからね」 涼宮ハルヒらしい言葉。彼女はありふれた普通の日常とは違う生き方を望んだ。世界の誰よりも面白い人生を目指した。それは途方もない夢。その夢は誰にも理解されなかったが、孤高を貫き夢は捨てなかった。そして、今も立ち止まることなく走り続けている。 一方、わたしはそんな彼女をただ、観察している。ただそれだけだ。 わたしの夢はなんだろう。 「でさ、キョン。クリスマスパーティを盛大にやるのはいいとして、何がいい? 鍋? すき焼き?」 「それでは店を予約しなければなりませんね」 「あ、それは心配しなくていいわ。ここでやるから」 「ここでやる?学校内それも古ぼけた部室棟でそんな料理していいわけないだろ」 「いいわよ。もし生徒会や先生達が乗り込んできたら、あたしの素晴らしい鍋料理を振る舞ってあげるわけ。そしたらそいつらもあまりのおいしさに感涙にむせび泣きながら特例を認めるに違いないって寸法よ。寸分の間違いもないわ。完璧よ」 涼宮ハルヒはふんぞり返り、彼はやれやれとでも言いたげな顔をしていた。部室は、クリスマス仕様にするまでもなく、ほがらかな雰囲気となっていた。 ◇◇◇◇ いつもと変わらない日常が広がっていた。毎日学校に行き、部室で本を読み、家に帰り金魚を眺める。それは不気味なほど平穏な日々だった。このまま何も起こらず18日が過ぎていくのではないか。そう思えるほど平穏だった。しかし、現実はそう甘くはなかった。 わたしが学校から帰り普段と変わらずマンションの一室で明日学校へ登校するために待機しているときに、それは起こった。 しんと静まる真夜中、何の前触れもなくベルが鳴った。ドアの前に立っていた人が全く予期していなかった人物だったので少し驚いた。 「夜分遅くにごめんなさい」 喜緑江美里がそこにいた。 「少しお話ししたいことがあるのですがよろしいかしら」 わたしは戦慄した。喜緑江美里とは友好関係にあるが2日後には大事件が待っている。とりわけ穏健派は『静観』が基本スタンスだ。世界改変を阻止するためわたしを消し去ろうとしても不思議ではない。間違ってもわたしに世界改変の手助けをすることはしない。 わたしは平静を装い喜緑江美里を部屋に案内して、お茶を煎れた。 わたしが彼女の前にお茶を出すと彼女は、笑顔を浮かべ 「ありがとう。長門さんも人間生活に慣れてきたんですね」 と言いながら湯飲みを持ち、こう続けた。 「朝倉涼子のことをまだ気に病んでいるのでしょ?」 「わたしは正しいことをしたまで」 「そう割り切っているならいいのですが、あなたはまじめ過ぎるところがあるので」 その言葉に少し驚いた。喜緑江美里はまじめでないことがあるのだろうか。 「私たちヒューマノイドインターフェイスは有機生命体とコミュニケートできるように、『感情』を持っています。そのため、情報統合思念体本体とは違い不完全な存在です。例えば情報統合思念体の指令をうっとうしいと感じたことはあるでしょう」 わたしは答えなかった。 「そう感じるのはエラーでもなんでもありません。極めて正常なことです。これは私たちが『感情』を有しているからこそ起こる現象です。自分が完璧であろうとする必要はないと思いますよ。たまには自分の欲望に忠実になってはいかがしら」 世界改変を勧めているように聞こえたので、その言葉はわたしにとって予想外だった。しかしなぜ? 「あなたの意図がわからない」 「ひどい言い方ですね。安心してください。わたしが今ここにいるのは情報統合思念体からの指令ではなくわたしの意志です。ここ最近のあなたは追い詰められているようだったから。 朝倉涼子がいなくなり寂しいのではないかと思いまして。わたしも孤独だったから……あなたを見ていられなかったの」 彼女は本当に心配そうにわたしを見る。それは意外な一面だった。わたしは何を言っていいかわからず黙り込んでしまった。 「本当は変えたいんでしょう」 彼女は唐突に切り出し 「あなたは何を躊躇しているの? 」 と続けた。 喜緑江美里は世界改変の事実はおろか、わたしの心の中まで把握している口ぶりだった。まさか、世界改変の事実が情報統合思念体に筒抜けになっているのではないか。 「安心して下さい。わたしがこの事実を知っているのは、未来のあなたが教えてくれたからです」 未来の私が? どうして? 「それは教えられませんわ。未来のあなたに口止めされていますから。本当は、ここに来るのも止められていたんですけど、あなたの様子を見てたら、どうしても話がしたくなりまして」 そう言う彼女に敵意も悪意も感じとることができず、わたしは彼女の言葉をあっさり信じてしまった。 「わたしは変化を望んでいる。でも、彼はそれを望んでいない」 「彼が脱出プログラムを起動したこと?」 「世界は彼によって元に戻される。仮に実行しても何も変わらない」 喜緑江美里はフっと笑った。 「長門さんらしいわ。確かに彼は望んでいなかったかもしれない。でも、それは意味のないことなのかしら。あなたがそれを行うことで世界は変わらなかったかもしれない。けど彼の気持ちは変わらないかしら」 「彼の気持ち? あなたの意図している意味が解らない」 「あなたの行動によって、あなたの気持ちが彼に伝わるのではないでしょうか。あなたには心に秘める強い気持ちがあるのでしょう。彼にその気持ちを伝えればどうかしら」 「わたしが意志を持ち彼に接触することは観察者として失格」 「あら、それは面白い認識ですね。観察者と傍観者は違います。あなたの行動が観察者としての役割を放棄することにはならないと思いますよ」 さらにこう付け加えた。 「それに人間と付き合うことは決して悪いことではありません。有機生命体のことを理解することは、観察活動においても大切なことです。なにより、楽しいですし。わたしも生徒会長と付き合っていますがなかなか貴重な経験ができますよ。確かにあなたの場合は相手が相手ですから少し自重していただかないと困りますが。それでも涼宮ハルヒにバレない程度なら問題ないでしょう」 喜緑江美里の激白には正直驚いた。 わたしは職務を円滑に行うため自らの行動に制限を設けてきた。情報統合思念体の指令に逆らいたいことも何度もあった。しかしそれはエラーだと言い聞かせてきた。しかし、喜緑江美里はそれを否定した。確かにいくら鈍感な彼でも、世界改変をすればわたしの気持ちを理解してくれるはずだ。世界改変を行うことは絶対にないと思っていた。しかし、今、わたしの心は揺れ動いていた。 喜緑江美里が帰ったあと、わたしは彼に電話をした。彼にお面を渡そうと思ったのだ。夏休みが終わりすぐに渡せばよかったのだが、わたしは躊躇し、今まで渡せずにいた。明日何が起こるか分からない。渡すなら今日しかないと思った。彼から電話がかかってくることは何度もあったが、わたしからかけることははじめてだと気付き、少し可笑しくなった。 「あなたに渡したいものがある。公園まできてほしい」 電話の向こうで彼が動揺しているのがよくわかった。公園で待つこと30分。彼が自転車に乗って現れた。 「待ったか」 「今来たところ」 「用事ってなんだ」 彼は医師から身体を蝕む病の告知を受けるため診察室に呼ばれた入院患者のように、どこか落ち着かない様子だった。 「これ」 わたしは差し出した。エンドレスサマー『9874回目の夏の彼』から渡されたお面を。 「覚えている?夏休みのこと」 「ああ。ハルヒのキテレツなパワーで繰り返しやってきた夏休みのことか」 「そう」 「あなたに記憶はないが、9874回目の夏、あなたはこのお面をわたしに託した。そして、あなたに渡すように頼んだ」 わたしは9874回目の夏に起こったことを伝えた。 「過去の俺には悪いが全く記憶がない。でも、俺は過去の俺に感謝している。8月30日、ハルヒが夏休みの終わりを言い渡して帰ろうとしたとき、俺は今まで受けたことのない既視感に襲われたんだ。それは、過去1万5千回分の過去の俺の声なんだってそう思ってる。あの既視感がなかったら俺はいまだに夏休みをさまよっているさ。当然、9874回目の俺にも感謝している。俺だけじゃない。過去の古泉にも、過去の朝比奈さんにも、もちろん長門にも」 彼は微笑みわたしに言った。 「ありがとう。このお面は大切にする」 わたしは安堵した。 「しかし、夜景か。俺に記憶がないのに、長門だけ俺と2人で行った記憶があるなんて不公平だな。今から行くか。その方が9874回目の俺も喜ぶような気もするしな」 「あなたとは行かない。彼との大切な記憶を汚されたくないから」 彼は呆けている。 「……冗談」 とわたしが言うと彼の顔は緩み 「勘弁してくれ。普段冗談を言わんから本気と勘違いしちまう」 わたしと彼は再びあの展望台へと向かった。 展望台は風が強く、わたしの髪がなびいた。吐く息が白く濁ったのをみて時間の経過を感じざるを得なかったが、そこにはあのときと同じ景色が広がっていた。夜景を眺める彼の横顔はどこか哀しさを漂わせ、9874回目の彼が消えた時の記憶がフラッシュバックした。彼を見て思う。わたしは彼が好きだった。好きで好きでたまらなかった。もしも願いがかなうなら、普通の人間になり、彼と笑い合い、喜び合い、励まし合いたい。思いを寄せる人を見て頬を赤らめ、驚くことがあれば、おどおどする、どこのでもいる女の子になりたかった。たとえわたしが消えるとしても、やってはいけないことだとしても、一度でいいから彼に微笑みかけたかった。 涼宮ハルヒの能力を使えばそれが可能だった。 わたしは世界改変を起こすことを事前に把握すればエラーを取り除き未然に改変を防ぐことができると考えていた。しかしそれは違う。事前にわかってしてしまったからこそ、世界改変をしてしまったのだと思う。世界改変をする時期はいつでもいい。未来になぞる必要はない。しかし、この機会を逃したら……今、世界改変を行わなければ、わたしはずっと逃げ続けてしまう。ここで決断できなければ、ずっとできない。そういう想いがわたしの頭の中を支配し、わたしに決断を迫った。 わたしは北高の校門の前に立つ。 辺りは暗く、街は寝静まっている。空には星が輝いていた。 わたしはふと考える。もし、彼の記憶も改変すれば…… 何も未来の規定事項に沿う必要はない。彼の記憶を改ざんし脱出プログラムも用意しなければ、わたしの望む世界が永遠に続く。 しかし、それだけではできなかった。今でも9874回目の夏休み、彼の最後の微笑みがわたしの脳裏に焼き付いている。彼の記憶を操作することだけはできなかった。 右手を宙に向ける。宙には星が輝いていた。世界よ。許して欲しい。わたしのわがままを。 そっと目をつぶり、世界改変を行おうとしたそのとき、驚くべきことが起こり、呪文を唱えることをやめた。わたしの前に『わたし』が立っていた。 「わたしは未来から来た」 わたしは息をのみ、黙って目の前のヒューマノイドインターフェイスを見つめた。同期化を拒否し続けた『わたし』がわざわざ会いに来るのだから相当重要なことだろう。わたしの前に立つ『わたし』は続ける。 「あなたに、忠告しなければならないことがある。世界再改変を円滑に進めるために次のことをしなければならない。必ず実行してほしい」 「まず、この後、この場所で世界改変を行うこと。その3日後、同じ場所、同じ時間に同じ動作をしてほしい。もちろん再び世界改変をやる必要はない。マネだけでいい。 次に、彼が3日以内に脱出プログラムを起動するように『しおり』に期限を明記すること。 最後に、朝倉涼子を復活させること。 また、あなたが危機に直面したとき、あなたを護り、あなたに銃口を向けた人間を殺すようにプログラムしておくこと。たとえそれが誰であっても」 わたしはそれを聞いたとき聞き間違いではないかと思った。わたしに銃口を向ける人が誰かを知っている。なぜなら、彼に銃を渡したのはわたしなのだから。 未来のわたしは本当にバグを起こしたのだろうか。 わたしは言う。 「彼を傷つけるようなことはできない」 「心配ない。わたしが彼を助ける。彼は殺させない。このプロセスは再改変に必要不可決。必ず実行する必要がある」 信じていいのだろうか。 「わたしは彼を何よりも大事に思っている。どのようなことがあっても、彼を殺すような行為は絶対にしない。信じて」 たしかにそうだ。『わたし』はわたしだ。彼の死を望むはずがない。 しかしなぜ。 「今は教えることができない。あなたにはこれから起こることを直接体験してほしいから」 「最後にもう1つ。もし、困った事態に直面したら彼とはじめて出会ったときのことを思い出して欲しい。彼に対して行ったこと、それが鍵になる。世界改変の成功を祈る」 時刻はちょうど午前03時00分を指し示していた。わたしは『わたし』の意図が全く分からなかったが、目の前にいる『わたし』が本心から世界改変の成功を祈っているのか、誰かに脅されて嘘を語っているのかを見分けることぐらいはできる。 何よりわたしの前にいる『わたし』はやわらかな表情と生きた目をしていた。 『目の前にいるわたし』は信用できる。 「あなたの忠告を受け入れる。必ず実行する」 と『わたし』に伝え、再び右手を挙げ、 そっと呟いた。禁じられた言葉を。 ◇◇◇◇ このとき、わたしはこれから起こる出来事を全く予期できていなかった。この後、事態は込み合っていて、複雑な段階が物語を創っていくことになる。 わたしはちゃんと考えるべきだった。 なぜしおりに期限を明記する必要があるのか。 なぜ朝倉涼子を復活させたのか。 なぜ喜緑江美里が世界改変を勧めたのか? 彼も朝比奈みくるも、そしてわたし自身も知らない隠された真実を知るのは今から3日後のことになる。 第2章につづく
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「『食』がおきる」 へ? 「『食』」 ………。 「長門さん、困っていますよ。ちゃんと説明しないと」 「……『蝕』のこと」 「『しょく』? 一体どういう字を書くんだ?」 「『食』とは天体が別の天体に見かけ上重なり、相対的に奥となる天体が見えなくなる現象。 見かけ上重なる原因は観測地点となる場所が惑星などそれ自身が動いているために起きる場合と……」 「長門さん……。簡単にいうと日食や月食ですね。」 ああ、やっとわかりましたよ喜緑さん。これでも長門の言いたいことは誰よりもわかっているつもりですが お仲間にはかないませんよ。 「いいたいことはわかりました。で?」 食がおきたらどうなんだ? 「『食』がおきる事によってわたしたちの能力が制限される。」 ??? 「長門さん、あなたが説明する、いつも通りだから大丈夫っていうから任せたのにそれじゃ伝わりませんよ。 まさかいつもそんな説明なんですか?」 「……まだ説明の途中。途中で止めるべきではない」 「………いいでしょう。続けてください」 ……えっと。 3点リーダーが充満する長門の部屋。 金曜の放課後、ハルヒの 「いい、キョン! 明日の集合に遅れたらおごり以外に罰金よ!」 という既定事項通りだとさらに金欠になる事が決定した命令をうけ帰宅の途について数分後、長門が目の前に現れた。 先回りか? ワープでもしたかもしれん。長門なら何でもありだ。 「話がある。家まで来て欲しい」 俺が長門の頼みを断ることがあるだろうか、いやない。ただ直接口頭で伝えられるとは意外ではある。 そこで冒頭の会話となるわけだ。 「この銀河を統括する情報統合思念体からのアクセスが食によって妨げられる。そのため情報操作能力がなくなる」 なんだ? 太陽電池か何かか? 「だいたいその認識で合っている。正確には様々な条件が重なった結果」 「宇宙パワー無しか……ってことは何かあった時まずいんじゃないか?」 「まずい。ただ現在最も危険視される天蓋領域も同時に食に入るため最悪の事態は避けられると思われる」 ふむ、となると 「問題は涼宮ハルヒ。彼女の機嫌を損ねるわけにはいかない。また機嫌がよくなりすぎて暴走させてもならない」 「長門さんの場合それだけじゃないんです」 「まだあるんですか?」 「喜緑江美里、それは今回言わないことに………」 「長門さんは黙って。というか長門さんが問題なんでしょ?」 ? 「我々が人間界で生活する上でも情報操作は便利な力です。」 「勉強しなくても成績が上位だとかスポーツでも優秀だとか?」 「それもあるんですが、長門さんは 「喜緑江美里、それ以上は」 長門さん、黙って」 いつもと違って何故かあせっている様子の長門。 恐ろしく貴重な風景だ。 「長門さんは少しばかり人間生活をさぼって 「やめて」 いーえやめません! いい機会です。彼に全部聞いてもらいましょう」 おいおい、長門がオロオロし始めたぞ。 「困る。言わないでほしい」 「あのー、一体……」 「長門さんは日常生活でも情報処理を多用しているんです。例えば彼女がトイレに行ったのを目撃したことありますか?」 なっ! ってあるような? つーか意識しとらん。 「つくられた存在とは言え私たちも人間ベースの有機生命体ですからトイレは必要です。 ただ長門さんは情報操作で極端に回数を減らしています」 「なぜトイレの話からするのか理解できない。他にも汗やくしゃみなど例があるはず」 焦った様子の長門。おいおい、一体どうなってるんだ? 普段のポーカーフェースはどうした。 内容が内容だけに恥ずかしいのはわかるが。 「他にも色々。睡眠時間を圧縮させて読書の時間に充てたり、教室の掃除をしなくて済むようにくじを操作したり 家の掃除は空間を操作して済ませていますね。」 なんとまあ。正直うらやましい話だな。やっぱり教室掃除はしていなかったのか。 「私たちは涼宮ハルヒの観測のためにあらゆる妨害を排除する必要があります。 涼宮さんに降りかかる厄介事はもちろんですが、私たちに降りかかる厄介事も排除する必要があります。 例えば涼宮さんや私たちがいじめにあうような事や、 痴漢暴漢犯罪者の類が近づかないように情報操作を行う許可を得ています。 ところが……はぁ」 喜緑さんは長門を見て溜息をつく。小さくなる長門。 自分のためだけに情報操作を行うのはあまり推奨されない行為なのか? 「もちろん全くダメってわけじゃないですし、多少、いえ滅多な事で罰は受けたりしません。 涼宮さんに何も影響を与えないのなら総理大臣や世界皇帝になってもいいんです」 ハルヒの力を奪い、世界を一変させ、親玉さえ消し去った長門が無事存在していられるんだから 情報思念体とは太っ腹だと思っていたんだが。一応ルールはあるんだな。 ん? あれは思いっきりハルヒに影響を与えていたんじゃないか? 「あれはあれで。まあいいじゃないですか」 なんかごまかされたぞ。 「とにかく、長門さんは普段情報操作を使い過ぎているんです。 だから今回のように10日間も情報操作が使えないのは非常に困るんです。」 「10日間もですか!?」 「あ、言ってませんでしたね。今日の19時0分42秒2……適当でいいですよね。 今日の7時過ぎから10日後の月曜日午前5時まで食に入ります。」 「あと10分ですか」 「ええ。長門さん、ほら」 かすかにモジモジしながら長門が俺を見る。う、ちょっと可愛いかもしれん。 「……………………お願いします」 「……お願いされました。何を?」 「んもう! 長門さん! ちゃんと言いなさい!」 古泉は喜緑さんは長門のお目付け役だといっていたがこれを見る限りお姉さんだな。 「………サポートを依頼したい。これから10日間、面倒かける。お願いします」 最後だけ敬語か。いやかまわん。 「いつも長門には世話になりっぱなしだからな。それくらい任せてくれ」 「感謝する」 「だからといって長門さん、全部頼っちゃ駄目ですよ」 「努力する」 この時俺は後の大騒動に発展するとは思いもよらなかった。 「間もなく時間」 「用意はいいですか?」 こくん、とうなづく長門。そして 「来た」 7時0分42秒が過ぎたらしい。一見長門と喜緑さんに変化は……ん? 長門の表情がどう見ても不安そうだ。そう、まるであの時の…… 「長門さん?」 「だ、大丈夫。問題ない」 喜緑さんも不安そうな顔だがこれは長門を見ての反応のようだ。 「本当に大丈夫なのか、長門? 顔色悪いぞ」 「へいき。不安なだけ。本当に平気。じきに慣れる。大丈夫」 声が裏返ってなかったか? 「本当に大丈夫。大丈夫! だいじょうぶ!! だいじょうぶ!!!!」 「有希ちゃん! 落ち着いて! 安心して!」 おい! 全然大丈夫じゃないだろ!! 初めて聞く長門の大声、震えだし、目や首をきょろきょろさせ、縮こまりだした。長門落ち着け! 慌てて喜緑さんが長門に抱きつく。長門は喜緑さんにしがみついてガタガタ震えている。 「申し訳ありません、お茶を用意していただけますか」 俺はあわてて台所に走った。 「落ち着いたか?」 「ありがとう。大丈夫」 今のお前の言葉には全く説得力がないんだが。 力を失っていきなりパニックに陥った長門が回復したのは2時間後。 その間お茶を淹れたり、ガタガタ震える長門に掛け布団をかぶせたり、長門の冷たくなった小さい手を握ったり、 母親からの帰宅が遅いとの怒りの電話に対応したりと大騒ぎとなった。 最後のがある意味一番大変だったな。 「申し訳ありません。いきなりこんなことになって」 恐縮する喜緑さん。いえ、あなたは悪くないですよ。 「しかし困ったな。長門、とりあえず明日は休め」 「駄目。涼宮ハルヒが不審がる」 布団の中から弱弱しい答えが返ってくる。 「いや、実際調子悪いだろ? お前が外でパニックになる方が心配だ」 もし探索の組み合わせが長門とハルヒだった場合……ハルヒがどう出るかでヤバいことになるんじゃないのか? 「もう平気。状況に慣れてきた」 その後も俺の意見を頑として受け入れず、長門は明日探索に参加することになった。 どう考えても不安なんだが長門の希望だ。それにハルヒは長門のことを大事に思っている。 おかしなことにはならないだろう。 「んじゃ帰るわ。喜緑さん、よろしくお願いします」 「本当にありがとうございます」 最後に喜緑さんと電話番号を交換し、確認をする。 「あの、このことは朝比奈さんと古泉に教えてもかまわないんでしょうか?」 「かまいません。というかもう知っているかも」 やっぱり。 「わたし達に情報操作能力がなくなったことを知って 彼らの機関や調査員がわたし達に危害を加えるかもしれませんから先に伝えています」 え? それって逆に相手に襲ってくださいって言っているようなもんじゃ? 「ええ。なので先手を打っています。もしわたし達の誰かが傷ついた場合食が明けた途端、 うふふ、これ以上は禁則事項です♪」 ……喜緑さんは優雅に口元に人差し指を当てた。朝比奈さんとは違う方向で色っぽいんだよなあ。 関係ないが喜緑さんは普段、長門の事を「有希ちゃん」って呼んでいるんだな。 二人の隠された親密度を垣間見てなんだかほんわりした。 帰宅すると母親からねぎらいの言葉をかけられた。喜緑さんが連絡をしてくれていたからだ。 貧血をおこした長門を介抱していたことになっているらしい。 さすが喜緑さん。と、同時に疑問が湧く。 俺の知っている宇宙人の仲間は3人。 長門、朝倉、喜緑さん。 最後に馬脚をあらわしたとはいえ、いやその本性も結局のところ人間らしかった朝倉。 おとなしいというよりおしとやかで、礼儀正しい喜緑さんはカマドウマの時のように演技もできる。 長門は? なぜ長門はあんな性格なんだろうか。 10分前にいつもの集合場所に着いた時、ハルヒの第一声は 「ええ!? あんたが最後じゃないって!?」 だった。 普段なら失礼な! と憤るところだが…… 動揺を見せないように出来るだけ自然に尋ねる。 「ん? 俺が最後じゃないのか? 誰が来ていない?」 見渡す。朝比奈さん、古泉 「有希がまだ来てないのよ」 不安そうにハルヒが辺りをうかがう。 「まだ時間にはなっていませんからね」 俺に意味ありげな視線を送りつつ古泉がこたえる。 「誰でも遅れることはありますよ」 「だけど有希に限ってそんなことありえる? あの有希よ?」 今回に限ってはありえるんだよ。 最初に見つけたのは朝比奈さんだった。 集合時間を5分過ぎ、ハルヒが携帯電話を取り出した時 「あ、長門さんじゃないかな?」 駅の中からトテトテと小柄なセーラー服の姿が走ってきた。 「有希!」 いつもの様子から想像もつかない、普段もあまり整っているとは言えない前髪は乱れ汗した額にへばりつき、 ぜぇぜぇはぁはぁと息を乱し肩で息する長門。……眼鏡!? 「どうしたのよ!?」 「はぁはぁ、ね、寝坊、ごめんあさい」 舌も回っていない。 「ちょ、ちょっと落ち着いて! 休憩しましょ!」 あわてていつもの喫茶店に入ることにする。 最初のお冷をおかわりし、2杯目を飲み干すことでやっと長門が落ち着いた。 「で、有希。本当にどうしたの?」 「寝坊。起きれなかった」 「夜遅くまで本でも読んでたの?」 「えっと、そう」 受け答えもぎこちないが息が整っていない感じでうまい具合にごまかされている。 そしてくじ引きは最初から予想された最悪の組み合わせとなった。 さすがハルヒ、不思議を呼び寄せる能力は半端ない。 いざ出発の段となって長門のパワーダウンぶりを見せつけられた。 「ルールはルール。わたしが払う………あ」 眼鏡をかけた表情が曇る。また『あの』長門を思い出してしまった。 「どうした長門?」 「財布を忘れた。パスケースを忘れて取りに帰ったから余計に遅くなったのに、財布も忘れていた……」 長門の顔がさらに曇る。まずい、またパニくるかもしれない。 「わかった俺が「あたしが立て替えといてあげる!」ってハルヒ!?」 「最後に来た人がおごるのがルールだから免除はナシよ。だけど財布忘れちゃったなら仕方ないじゃない。 今日の有希の支払いはお昼も含めて立て替えといたげるからね。いい?」 「いい。ありがとう」 心底ほっとした表情の長門。 ふぅ、なんとかこの場はしのげたな。 「んじゃあ、あたし達はこっちに行くから」 「おう。……長門、無理するなよ」 うなづく長門。ちょっとハルヒが俺を睨んでいたような気がするが。気がするだけだ、うん、気のせいだ。 「さて古泉、それと朝比奈さん、どこまで知ってますか?」 「とりあえず場所を変えませんか。ここではちょっと」 古泉の勧めで駅前から離れ別の喫茶店に移動する。そんなに飲物ばかりいらないんだが。 「我々は再来週の月曜日まで長門さんたちが力を使えない、その間TFEIに危害が加えられた場合 報復があるので手出しは厳禁、と聞いています。」 喜緑さんに聞いた通りの内容だ。 「未来からはこれから10日間、細心の注意を払うように、って指示が来ています。 あと長門さんたちを襲わないように強制コードがかかりました。 詳しくは禁則なんですが強制コードは強力すぎるため滅多なことでは発令されません」 いつぞやのお使いゲームの時はその『滅多』なことだったんですね。 古泉がいつも通りのさわやかスマイルで俺に問う。 「あなたはどうやって知ったんですか? 長門さん本人からですか?」 それ以外ないだろ。 「喜緑さんというラインもありますからね」 この野郎、見てたろ。2人から説明されたのを。 「いえ、考えられる可能性を言っただけなんですが。まさか両方とは思いませんでした」 ……こいつはスパイの口を割らせる側に就職すればいい。 いや俺が引っ掛かりやすいだけかもしれないな。 「昨日、力が使えなくなってからどうも長門が不安定なんだ。どうやら不安らしい」 パニックになったことは伏せておこう。 「だからこれからしばらく長門に気をつけてやってほしい」 「もちろんです。今まで長門さんに頼りっぱなしでしたからね。感謝と恩返しの意味でも力の限りフォローしますよ」 「あたしもです」 古泉が額に指を当てた考え込むポーズをとる。 「涼宮さんが何か勘づく可能性がありますね」 「そうですね。普段完璧な長門さんが遅刻していますから、涼宮さんの注意が行っているはずです。 あたしたちも長門さんと話をあわせとかなきゃいけませんね」 古泉がさらに何か言いかけた時、俺の携帯が鳴った。ハルヒから!? まだ別れて1時間も経っていないぞ。 『ちょっとキョン! すぐにきて! 川沿いの遊歩道! 前に映画撮ったとこ!』 それだけ言うとすぐ電話が切れた。 まさか長門が!? 不安がよぎる。 「有希がへばっちゃったのよ。そんなに歩いたつもりはなかったのに」 青い顔をした長門がハルヒに膝枕されている。 見えそうになるパンツはスカートの上にハルヒの上着が掛けられしっかりガード。 まあ隠すという用途以上に温めるために掛けられていそうだが。 「長門、体調がわるいんじゃないか? だから遅刻やら倒れたりしたんじゃ……」 「大丈夫、平気」 長門は俺の言外の帰って休めという意図をくみ取ることが出来ないようだ。 「今日はもう帰って寝た方がいいと思うんですけど。顔色悪いですよ。熱はありますか?」 朝比奈さんが長門の額に手をあてる。 「ないですね」 朝比奈さん、赤い顔ならわかりますが青い顔なら熱はなさそうなんですが……。 しかし朝比奈さんの優しさが伝わってくる光景です。 「キョン、有希のピンチに何で鼻の下伸ばしてんのよ!」 「いや、そんなんじゃ」 「大丈夫、だいじょうぶ、だいじょうぶだから」 またヤバい兆候だ。出来るだけ刺激しないように長門を諭す。 「長門、じゃあこうしよう。取りあえず飯だ。休憩しよう。実は俺、腹が減ってきた。」 まだ11時だがな。 「そうですね、今の時間なら店も空いているでしょうし、いいタイミングかもしれません。涼宮さん、そうしませんか?」 ナイスだ古泉。 「そうね、そうしましょ。有希、行くわよ」 「だいじょ「団長命令よ」…わかった」 長門よ、お前が意外と強情なのは知っているが今日は意固地すぎるぞ。どうしたんだ。 普段の健啖ぶりは見られず、長門のランチは半分ほど残された。 「長門、やっぱり帰った方がいいと思うぞ」 「あたしもそう思います」 「大丈夫」 大丈夫が口癖になってるな。 「いいこと思いついたわ! 午後の活動は有希ん家で読書大会よ!」 「なに!?」 ハルヒがとんでもないことを言い出した。いや、意外といい考えかもしれん。 自宅ならもし長門の調子が悪くなっても寝るだけだから問題ない。 しかし 「こ、困る」 長門がオロオロし始めた。すがるような眼鏡越しの眼で俺を見る。 「ん、なんで? 片付いてないの?」 「そう。片付いてないから困る」 「そっか。寝坊して慌ててきたってことはぐちゃぐちゃね。片付けてあげよっか?」 「い、いらない」 「遠慮は無用よ?」 「いらない」 「そっか。んじゃ昼からの活動は映画鑑賞にしましょ」 『映画』という単語の響きだけで朝比奈さんがひぃ、と小さく叫ぶ。 「みくるちゃん、どんな映画がいい?」 気付けよ、ハルヒ。 「へぇえ、何でもいいですー」 朝比奈さんまでおかしくなってる。 解散後、すぐにハルヒに呼び止められた。 「今日の有希どうだった? 絶対普通じゃなかったわよ。」 さすがハルヒ、っていうかすぐ分かるな。 「ああ。体調というかなんだか調子悪そうだったな」 「どうしちゃったのかしら。大丈夫かなぁ? やっぱり一人暮らしだから? たまに手伝いに行った方がいいのかな? そうだ! 泊まり込みでってのも面白いかも!」 お前が遊びたいだけじゃないのか? 「わかった?」 嬉しそうに笑うハルヒ。すぐにまじめな顔に戻る。 「有希も寂しいんじゃないかな? 確かに静かなのが好きなんだろうけど。テレビも無いし。 だけど寂しく感じる瞬間もありそうじゃない」 否定しかけて思いとどまる。そう言えば前もそんな事を感じた気がする。 しばらく他愛のない雑談のあとハルヒは用事があるから、と帰っていった。 さて、俺も長門の家に行かないと。 長門の家の前で古泉と合流する。 「てっきり中にいるものだと思ってたが?」 「片付けが終わるまで待って欲しいと。涼宮さんはなんとおっしゃっていましたか?」 「長門の不調を心配している。体調不良だと思っているようだ」 「入って」 長門がドアを開け、俺たちを中に招き入れてくれる。そして和室を指し一言、 「こっちの部屋には入らないでほしい」 長門よ、余計な事は云わない方がいいと思うぞ。 「……うかつ」 長門は見た目上落ち着きを取り戻している。が普段の冷たさというか硬さが感じられない。 なんだか病み上がり感というか、……ふにゃっとしている感じがする。 「お茶をどうぞ」 一緒に片付けをしていたらしい朝比奈さんからお茶を頂く。ありがとうございます。やっと落ち着きましたよ。 「で、長門、どうなんだ? 遅刻とかは本当に体調不良じゃないなのか?」 「それは……」 赤面し言い淀む長門。う、ちょっとかわいい。 「遅刻は本当に寝坊。いつもは目覚まし時計は不要だが情報統合思念体の……」 そこで止まる。そうか、喜緑さんが言っていたのはこのことか。 「片付けをする暇もなかったんですよね」 「い、言わないで」 「あ、ごめんなさい」 慌てる長門の姿は本当に貴重だ。 あとは体力面だがこちらも情報統合思念体のアシストがなくなったたらしい。 「いきなり体力が下がっても体の使い方はすぐには変わりませんからね。 いつも電源アダプターをつないでいるノートパソコンが停電でバッテリーだけになったようなものですか」 古泉、お前はやっぱり解説係なんだな。 「学校は大丈夫か? 体育もだが登校の道のりもだ。結構長い坂道だぞ」 「それくらいなら何とかする」 「学校を休む手もあるが。忌引きとかどうだ?」 「無理。学校に連絡する保護者がいない。情報操作もできないので担任を説得しきれない」 そうか。それは盲点だった。じゃあ入院も無理だな。……おい、本当に病院に行く事態になったらどうするんだ? 「大丈夫。保険証はある。その他必要がありそうな証書類は最初から用意してある」 なら安心だ。 もし何かあったらすぐ連絡するように、と長門に念を押しマンションを後にする。 「一応機関が病院を抑えていますので何かあった場合すぐ対応できます」 古泉が今後の万が一を想定して、と語る。 「もし長門が倒れたとして解剖だの調査だのはしないのか?」 「確かにそんなことを主張するグループもいることにはいますが」 肩をすくめながら続ける。 「食が明けたとたん地球滅亡なんてことになったら目も当てられません。 情報統合思念体にとって涼宮さんを捨てるという選択肢もありますから」 確か長門はハルヒを『自律進化の可能性』と言っていたな。 可能性がない、または天秤にかけて価値が低いとなれば地球の存在などどうでもいい話となる。 なんにせよ長門が無事無難に過ごしてくれれば問題ない。 「あの~、大きな出来事はないと思います。未来で情報統合思念体の食関係での事件は聞いていません。 隠されている事実がとかがあったとしても、大事件ならその影響が必ずどこかに現れるはずですから」 朝比奈さんの太鼓判を押してくれた。朝比奈さん(大)も来ていませんし。そうですか、なら安心です。 日曜、そろそろ昼飯時かと思っていたら長門からヘルプの要請があった。 買い物に付き合って欲しい、ということだ。お安い御用だ。どうせ用事も無かったしな。 と、軽い気持ちで出かけたが、 「おい、お前の家は何人家族なんだ?」 「いつもこれくらい購入している」 いやいやいや!? 業務用のカレー缶1カートンをいつも買ってるのか? つうかどうやって持って帰ってるんだ? 車じゃないぞ? 「失念していた。いつもは、……何でもない」 絶対に情報操作だな。 呼び出されたのは小売りのある問屋で、いつもここであのカレー缶を買っているらしい。いいなここ、今度親に教えよう。 だが長門が買った量が問題で 「困ったぞ。荷台に乗りきらん」 「ごめんなさい」 でかい段ボール箱と米10kg。だからいつもはどうしてたんだよ。 荷台と前かごにカレー缶、サドルに米を載せなんとか運ぶことができ、遅い昼食を長門に振舞ってもらう事になった。 当然この持ち帰ったカレーだ。まあ普通にうまいからいいか。 玄関を開けてもらい台所へ……行けなかった。長門、何故とうせんぼする? 「荷物は玄関でいい。申し訳ないが玄関で待っていてほしい」 凄い早口で焦り気味な長門。そうか、呪文を唱えてる分鍛えられてるのかな。 今度は赤パジャマを言ってもらおう。黄巻紙の方がいいかな? って、 「なんでだ!?」 「……」 何も言わず台所の扉が閉まった。 台所からはガチャガチャと音が聞こえる。ははん、また片付けていなかったんだな。 ガチャン!! ……今のは絶対割れたな。 「長門!?」 「問題ない。大丈夫」 どういう意味で大丈夫なんだろうか? ようやくリビングに入れてもらい席に着く。和室を指さし、 「この部屋は覗いてはだめ」 ちょっと意地悪を言いたくなるな。 「いろいろ放り込んだからか?」 「違う。ちょっと待って欲しい」 目が泳いでるぞ。長門は逃げるように台所へ姿を消した。 ……目が泳いだ長門を見るのは二度目だ。 あの、長門が作り上げた世界。あいつは誰にも文句ひとつ言わず一人で何もかも抱え込んでいた。 今回長門が俺を頼ってくれたことは素直にうれしかった。 限度はあるだろうが、もっと俺たちを頼って欲しいもんだ。 いつぞやの、朝比奈さんと3人で食べたカレーが目の前にある。 違うのは朝比奈さんがいないのと 「その量はさすがに少なくないか?」 「問題ない。残りは晩に食べる」 いや、カレー缶の残量はどうでもいいんだ。お前のカレーの量は茶碗で収まるぞ。 そして 「指を切ったんだな」 「! だ、大丈夫」 なんだ、その「バレた!」的なリアクションは? 左手で右人差し指を押さえ、手の隙間からティッシュの端が見えている。どう考えてもおかしいだろ。 「本当に大丈夫か? 見せてみろ」 「大丈夫」 こいつの場合、多少無理しても「大丈夫」「問題ない」で押し通す傾向があるからな。 朝倉の攻撃やミクルビーム食らった時も大丈夫だと言っていたがどう見ても大惨事だったぞ。 今回は宇宙パワーがないだけに非常に心配だ。 「いいから見せてみろ。ガラスか瀬戸物を割ったんだろ?」 「大したことはない。気にしないで」 埒が明かん。強引に長門の手を取る。 「あ」 小さめの手、人差し指の指のはらに小さな切り傷があった。 「んー、血は止まってるな。絆創膏はあるか? 買ってくるぞ?」 「い、いい。もう大丈夫」 慌てて手を引っ込めて、また目を泳がす長門。まるで悪いことした幼児のようだ。 「いいか、長門」 ここは言ってやらないとな。 「別に怒ってるわけじゃないぞ。なにか起きたら俺に言ってくれ。 普段なら自分でなんとかできるんだろうが、今回は無理なんだろ? 今までお前に世話になってるし、いくらでも手伝うさ」 「あ、ありがとう」 若干顔を赤らめる。 確かに人に物事を頼むのは勇気がいるかもしれないが、 俺がそのハードルを下げる役割をやってやる。 他ならぬ長門、お前のためならいくらでも頼まれてやるさ。 ついに平日が始まった。あの長門の調子だと非常に心配だ。登校後、自分のクラスに行く前に6組をのぞく。 長門はまだ来ていない。朝から部室に行っているのか?嫌な予感がして長門の携帯に電話をかけてみる。 ………出ない。呼び出し音がするから電源が入っているのは間違いない。 登校中でカバンの中で鳴っているのに気付いていないだけだろう。まさかな、と思い家の電話にかけてみる。 ……1……2……3…… ところで電話の呼び出し音は何回くらいで諦めるもんだろうか? 留守電になったら出ないのは確実だが5、6回目くらいでいないのかと思い 切ろうかと思うがいやまて、あわててキッチンの火を消したりしてたらちょっと遅れるかもとも考え 結局俺は10回をめどにし 『………』 やっぱり10回位は必要だな……って、え!? 「長門! お前なんで家にいるんだ!?」 『え。 あっ!』 「OK、長門。遅刻は確実だ。開き直ってあわてず 『ガチャンガチャゴトゴト……タタタタ…パタパタパタ…ドタン!…ゥゥゥ…パタパタ…』おーいながとー!」 受話器を投げてあわてて準備を始めているのだろう。まずいなあ。 「キョン?」 げぇ、ハルヒ! 「なんで6組なんて覗いてるわけ? ひょっとして有希目当て? あんたあたしに隠していやらしいこと考えてない?」 「い、いやなんだ、その、本だ! あいつに本を借りる約束しててな」 「あんた本なんて読んでたっけ?」 「失敬な。んで『いやらしいこと』ってなんだよ?」 「え、な、何でもないわよ!」 「へ~」 「信じてないなこのバカキョン!」 話を逸らせたことと予鈴によってこの場は何とかごまかせた。 1時間目の退屈な数学。なんとか俺は自我を保ち板書をノートに書き写していた。 ハルヒはとっくに夢の世界へ。よく見つからないな。 そんな時、廊下側に動く影が目に入る。長門!? 俺のクラスを通り越していく小柄な影。 数秒遅れてざわつく隣のクラス。 長門よ、本当に心配だ。 ようやく休み時間となり、待ち構えていた俺はそっと6組をのぞく。 長門の周りには人だかりができていた。 そうだよなぁ。完璧超人が遅刻してきたら注目の的になるよなぁ。 だが今の長門がこれだけの人数を相手できるのか? もみくちゃにされて 「キョン!」 またハルヒか。 「そんなに楽しみにしてる本なの?」 「あ、ああ。何でも猫飼い必読のSFらしくてな」 「なにそれ? あんたそんなにシャミセンをかわいがってたっけ?」 「毎日一緒に寝てると愛着もわくってもんさ」 「へー …いいなぁ……」 「いいだろう」 「あ、え、そうね! あたしもちょっと飼いたいんだけどさ、ええと、親が動物苦手で……」 結局休み時間に長門に会うことができなかった。 昼休み、弁当を持って部室へ行く。いつもなら長門が先に来て本を読んでいるところだが。 ……来ないな。 弁当を食べ終え、パソコンでニュース系サイトを眺めたりしているがまだ長門が来ない。 うーん、教室にいるのか? それとも食堂か? いつも会いたいときに会える長門に会えない。そんなことはあの世界だけで十分だ。 いや、そのときだって長門はいてくれたな。自分を変えちまっていたが。 いつだって長門はいてくれていた。 何を考えているんだ、俺? 長門は遅刻しながらもちゃんと来てたじゃないか。 放課後になったらいつも通りSOS団に来るさ。 今週のハルヒは掃除当番である。 ちょっとだけ長門と話せる時間がひねり出せるな、 と思いつつ6組の方を見てみると長門が6組女子に拉致られそうになっていた。 「! ………」 俺を確認したらしい長門は眼鏡越しに何かを訴えてきている。 「長門、どうした?」 「あれ? 5組の誰だっけ?」 「キョンくん」 「そうだキョンくんだ。長門さんに用?」 俺の本名はどこ行っちまったんだ? 「まあ用と言えば用だが。これから部室に行くんだが一緒に行くかな、と思って」 「ええ~~あたしたち今からみんなでカラオケに行くんだけど。長門さんも一緒に」 なに!? 「長門、そうなのか!?」 「ち、違う……」 困り顔の長門。 「行くとは言ったけど今日は駄目……」 「えーいいじゃん」 「いこいこー」 どうやら誘いを受けて断りきれなかったらしい。 「あー、長門も困ってるみたいだしまた今度にしてくれないか?」 「ってあんた長門さんの何?」 う、それを言われると辛い。 と、一人が急に 「あ! ごめん気付かなかった。長門さん先約あったのね? 早く言ってくれないと!」 ニヤニヤと俺と長門を見比べはじめた。 「キョンくんもごめん。わたし達も気を使うべきだったよ」 「そうだそうだ。ごめんねー」 「「「ごゆっくりー」」」 何だったんだ? 長門を残して6組女子連中は行ってしまった。 「長門、何かあったのか?」 「話せば長くなる。まずは部室に行くべき」 そういうとスタスタ歩き始めた。いつもの長門の行動だが今は凄く不自然にみえる。 なんだか無理して演技しているようだ。 その証拠に廊下の人ごみに阻まれて進めないでいる。 普段なら文字通り数歩、数十歩先を読んで障害物を避けながら進んでいくのに、今日は目の前しか見ていない。 「長門、一緒に行こうぜ」 長門はこくんとうなずいて俺についてきた。 朝比奈さんが着替え中ということで廊下で待つ。が、 「長門、お前は入っていいんだぞ?」 「あ」 完全に長門は別人になったみたいだな。そんなに情報なんちゃらの影響力って凄いのか? しまった、今の時間に長門と打ち合わせしとくべきじゃなかったのか。 「こんにちは。長門さんの様子はどうですか?」 古泉か。 「おう。あんまりよろしくない」 「それは困りましたね。隣のクラスなのに良くないと分かるとは深刻です。それとも監視していましたか?」 「監視っていうな。……まず今日も長門は遅刻した」 それを聞いた古泉はうなづく。 「らしいですね。本当に深刻な状況かもしれません」 「どうぞー」 メイドな朝比奈さんが俺たちを迎え入れてくれた。 表面上はいつもの活動通りだった。 遅れてきたハルヒはネットサーフィン、長門は読書、朝比奈さんがお茶関連の作業で俺と古泉がゲーム。 まったくもっていつもと同じ。 ………。 『舟を漕ぐ』という表現を考えた人間は誰だろうか? 居眠りに対してこれほどの文学的な表現を与えた人物は。 今まさに夢の世界という名の大海原に漕ぎだしている長門有希を見てそう思う。 まてよ、大海原なのに手漕ぎボートは危険じゃないのか? あ、ガレー船か。納得。っていうかやっぱり戦艦なのか? 長門だけに。 「ちょっとキョン、何やらしい目で見てんのよ」 小声でハルヒが俺を非難する 「やらしくなんかないだろ。この慈愛に満ちた眼差しをやらしいと感じるお前が汚れてるんじゃないのか?」 「なんですって!?」 「涼宮さん! 長門さんが起きちゃいますよ!」 そうですよねぇ、朝比奈さん。 「……このバカキョンが」 今は長門の寝顔鑑賞会となっている。 「やっぱり有希って体調悪いのかなぁ。土曜からおかしいじゃない。」 心配そうにハルヒが言う。 「それとも寝不足? そんなに面白い本があるなら教えてもらおうかしら?」 長門が持っている本をのぞきこむ。 「……洋書?」 ハルヒが頭をあげたときに長門がこっくりと頭を下げた。 「ひぇっ」 ごん かちゃ 「あだ!」 「ぐ!」 順番に 朝比奈さんの悲鳴、ハルヒと長門の激突音、眼鏡がずれる音、ハルヒの間抜け声、長門のうめきである。 両方からの加速度で破壊力も倍増しハルヒは後頭部、長門はでこを押さえうめく。 「ごめん有希!」 「なに??」 まだよくわかっていない長門。 「だ、大丈夫ですか? 今、すごい音がしましたよ」 朝比奈さんはぶつかる前に悲鳴を上げていましたね。 「長門さん、眼鏡は大丈夫ですか?」 「え?」 古泉に問いかけられ顔をあげる長門。その瞬間 がちゃ 「あ」 かろうじて耳に引っ掛かっていた眼鏡が床に落ち、 「「あああ!」」 ハルヒと古泉とがハモる。残りのメンツは固まったまま。 情報操作の能力がなくなって運まで落ちるのか、長門? 眼鏡はレンズを下にして落ち真ん中に大きな傷をつけていた。 「……」 「ご、ごめん有希!!」 「……いい」 かえって冷静になったのか傷つき眼鏡をかける長門。しかし 「……視界が大幅に悪化している」 お前が違和感感じるのと同じくらい外見も違和感ありまくりだぞ。 真ん中に派手なクモの巣状のひびが入っている。 最近の眼鏡はプラレンズばかりでガラス製は無いと聞いていたがプラでもこんなにひびがいくのか? 「買い替え、ですねぇ」 「僕の知り合いの眼鏡屋を紹介します」 古泉、お前はとことん便利な奴だな。 「ああ、ごめん、ごめん有希! ちゃんと弁償するから!」 古泉の知り合い、という駅前の眼鏡屋で長門の眼鏡を選ぶため、団活は終了。 先頭を古泉と俺、続いて長門と朝比奈さん、遅れてとぼとぼとハルヒがついてくる。 流石のハルヒもへこんでいるようだ。 車を避けるために足を止めると背中に衝撃を感じた。 「長門?」 「すまない、よく見えていなかった」 「そういえば長門、お前視力いくつだ?」 「正確な数値は覚えていない」 「そうか。だが、だいぶ悪そうだな。」 俺はこの時、長門が『正確な数値を覚えていない』と発言したことに軽い衝撃を受けた。 ハルヒの見立てでフレームが選ばれ、レンズ作成まで1時間ほどだった。 長門の視力が非常に悪く高いレンズを取寄せする関係で本当はもっとかかるハズだったが、 そのあたりは機関パワーでなんとでもなるらしい。 新川氏あたりが工場から運んできたんだろうか? 誰にどのフレームがあうかと誰でもやる他愛のない遊びをしているうちに眼鏡が出来上がっていた。 夕方遅くになっていたため眼鏡屋で解散したがすぐ長門に携帯電話で呼び出された。 「どうした?」 「……目がまわって気分が悪い。眼鏡酔いと呼ばれる状態。できれば家まで送って欲しい」 相当弱っているな。 自転車の後ろに長門を乗せ、マンションまでの長くダラダラとした坂を登る。 いつぞやの3人乗りの時と違いしっかりと長門の体重を感じながらペダルを漕ぐ。 それにしても長門、お前はこんなに軽かったんだな。 こんなに小さく軽い長門が大げさに言えば全地球の命運を担って頑張ってきていた事を考えると なんだか涙が出そうになってきた。すまん、お前にばっかり頼っていた。せめて今だけは俺たちを頼ってくれ。 それが俺たちに出来るお前へのせめてもの恩返しだ。 「……ごめんなさい」 「いや、謝るのは俺の方だ。だがなんで声をかけてくれなかったんだ?」 「……気が引けて声をかけることができなかった……」 後ろにいる長門に想いを馳せているうちに、後ろに長門がいるのを忘れていた俺は自宅まで長門を連れてきてしまった。 アホだ。アホすぎる。誰にもこの姿を見られていなければいいが。 せっかく連れてきたのと妹にいきなり見つかったのと俺の母親が世話好きなのが重なって 長門を我が家の晩餐に招待することのなった。 唐揚げとサバの塩焼きと味噌汁にご飯というレパートリーに何のコンセプトのないごく一般的な家庭のメニュー。 小食になった長門はサバの塩焼きに手間取り、唐揚げに手が伸びていない。 先週、長門が貧血で倒れている、と思っている母親は長門にもっと食べて欲しそうだったが。 妹は大食いの長門を知っているから勝手に長門の皿に唐揚げを載せていく。 涙目気味の長門の視線を受け俺が唐揚げを処分していく。 おかげで俺まで涙目気味だ。 食事の後、長門を再び自転車の後ろに乗せマンションに向かう。 妹は遊びたがっていたが今日は月曜日だぞ。まだ週が始まったばっかりだ。 マンション到着後、長門にお茶を誘われたがやはり同じ理由で断って家にとんぼ返りする。 母親の長門に対する質問攻めをなんとかかわし、 いきなりフルスロットルで始まった一週間の1日目をようやく終わらせることができた。 『よかったら…………持って云って』 長門、悪い。お前じゃないんだ。 『……』 そんなに泣きそうな顔をするな。 『……』 違う、お前じゃない。俺の長門は ………… 夢か。 眼鏡をかけ、オロオロしているあいつを見て脳みそが記憶を引っ張り出してきたらしい。 ………… 長門。 ハルヒの悪だくみに巻き込まれ、文芸部部室と共にSOS団に組み込まれた女子。 あの頃も眼鏡だったな。いつから眼鏡じゃなくなったんだっけ? 初めて部屋に呼ばれた時も眼鏡だったな。 あの時あいつの話を聞いた時は可哀相な電波女だと思ったが 朝倉に殺されかけた時、真実の尻尾あたりを見せつけられた。 尻尾どころか毛先の枝毛くらいなのかもしれんが。 そうだ、その時あいつは『眼鏡の再構成を忘れた』とか言っていたな。 それ以来あいつは眼鏡をしていない。 ああ。俺があいつに『眼鏡をしてない方が可愛い』って言ったからだ。 唐突に気付いた。 ………… 4時か。まだ寝れるな。 火曜3時間目は5、6組の合同体育授業である。 5組の教室が女子の、6組教室が男子の更衣場所となる。 であるからして、 「やっほー有希! 調子どう?」 長門が着替えに俺のクラスに来た。 「大丈夫」 「そ、よかった」 長門が俺の机の上に体操着袋を置く。 「んじゃな」 こくんとうなずく長門。昨日買った真新しい眼鏡。うん、良く似合う。しかし俺はやっぱりない方がいいなぁ。 「おいキョン、長門有希は眼鏡に戻ったのか?」 谷口は相変わらず女子に関して目ざとい。その観察力と情熱を少しでも勉強の方に振り分けたら多少人生が変わるぞ。 「女に目を向けているから人生が楽しい方に変わったんじゃないか。しかしやっぱ長門有希は眼鏡の方がいいな」 お前は眼鏡属性ありなのか。 「そうかな? 僕は無い方がいいと思うな」 おお、国木田。お前はわかっている。 そして授業開始後10分で事件が起きた。らしい。 というのもハルヒからの伝聞だったからだ。 「1500m走の2週目でダウンしちゃったの。信じられる!? マラソン大会で2位の有希がよ!? 絶対おかしいわ! 何か病気なのかしら。心配だわ」 確かに心配だ。また眼鏡酔いか? 「あの娘一人暮らしでしょ? だから体調崩しても見てくれる人がいないわけじゃない。大丈夫かしら?」 確かに。宇宙パワー全開の時は全く気にならなかったが今は物凄く心配だ。 そして今俺には逼迫した心配事が別にある。 「なによ?」 「長門の制服一式がそのまま俺の椅子と机に残っているんだが」 長門は保健の先生に連れられてタクシーで早引けしていた。俺の机に制服を残して。 そして放課後、SOS団と6組の女子連中で長門家へ見舞に行く事でもめている。 正確にはハルヒと6組女子だが。 ハルヒの言い分は団員だから。6組女子の言い分はクラスメイトだから。まあどっちもわかる。 じゃあ一緒に行けばいいじゃないか。 「人が多すぎて迷惑じゃないの!」 んじゃあハルヒと6組女子で行けばいいじゃないか。 「あんたの預かってる服はどうすんのよ! ……ってあたしが預かればいいのか。 そ、そうね。あたしと6組で行ってくる。団は休みにしてもかまわないから」 たまにハルヒは抜けたところがあるな。 そういや昨日、長門が6組女子に連れて行かれそうになっていたな。 何が起きたかを聞こうと思っていたがすっかり忘れていた。 まあ、あの様子じゃいじめとかじゃなさそうだから急ぐこともないか。 団は休みじゃない。 むしろハルヒがいないことによって遠慮なく話し合いができるってもんだ。 「事態は意外に深刻そうですね。取りあえず想像以上に長門さんが弱ってることがわかりました」 「喜緑さんはどうなんだろう?」 「昨日の体育では普段どおりだったような気がします」 朝比奈さんが小首をかしげる。 「しかしまいったな。これからずっとこんな調子なのか?」 「大いにあり得ますね。長門さんが休まない限り」 「でも長門さんは休みたくないみたい。やっぱり学校が楽しいんじゃないのかなぁ。それとも、ううん、何でもないです」 「朝比奈さん、気になることがあったら言ってくださいよ。何かヒントになるかもしれませんから」 「ええと、うーん、そう! 長門さんはまじめだから涼宮さんの観測を続けないといけないと思ってるんじゃないかな」 「……そうですね。その可能性も高いでしょう」 「古泉、何かほかにあるのか?」 「いえ、あらゆる可能性があると言いたいだけです。何せ長門さんが何を考えているかなんて想像不能ですから」 こいつはいけしゃあしゃあと嘘をつくからな。お前が何を考えているかも想像できねえよ。 だが長門の考えがわからないのは確かだ。 「さて、長門と連絡をとりたいわけなんですが、あの、朝比奈さんお願いします」 「へ?」 「いえ、今ハルヒと6組女子が長門の家にいるはずなんで。俺がかけると怪しまれるというか……」 「あ、そうですよね。わかりました」 「連絡する事とは何ですか? 夜でもかまわないのではないでしょうか?」 古泉が不思議そうに聞く。 なんとなくあいつの声を直接聞きたかっただけなんだが 「今日の場合、夜だと寝てる可能性があるからな。今なら騒がしくて起きているだろう。 用という用は特にないんだが、今のうちに長門にリクエストがあるなら聞いておきたいし、 元気なようならまた夜に電話できる」 ごまかしておく。半分は本当に長門の要望を聞いておきたいとは思っている。 「なるほど」 「かけますね」 朝比奈さんが長門に電話をかける。すぐ出たようだ。 「もしもし、朝比奈です。…… 元気ですか、え? ……そんな、わかりました。すぐ行きます」 え、何があったんですか!? 「涼宮さんと6組の子とで険悪な雰囲気になってるみたい」 おいおい、どうしたんだ、ハルヒ!? 「キョンくん、5組と6組で対立していましたか?」 いやそんなことはありませんでしたよ? 「取りあえず急いで行ったほうがよろしいでしょうね。タクシーを……」 「古泉くんとキョンくんは来ないでください。これは女の子の話なんで」 珍しくきっぱりと朝比奈さんは言い切った。 「すいません喜緑さん、事態がさっぱり飲み込めないんですが……」 「そうですね、わたしもどこからどう説明すればいいのやら……。とにかく来てくれてありがとうございます」 「あ、いえ、長門とのサポートの約束でもあるんで気にしないでください」 喜緑さんの説明によると、 見舞いに行ったハルヒと6組女子の間が何故か険悪になり、 朝比奈さんと鶴屋さん(学校を出る前に一緒になったらしい)が長門マンションに着いた途端激化、 長門が泣き出した、長門が泣くというだけで異常事態だと分かるが、 その時に喜緑さん到着でみんな追い出され俺が召集を受けた、となるようだ。 ついでに言うとまだ部室にいた俺が喜緑さんの電話を受けている時、古泉は機関から電話を受けていた。 つまり 「閉鎖空間が発生しました。なにか涼宮さんの機嫌を悪くする事態が発生したようですね」 と結構深刻な状況となっていた。 ちなみに長門は寝ている。どうやら本当に体調を崩したようで、枕もとには病院で出た薬が置いてある。 「保健の先生によると風邪だそうです」 「あの、喜緑さん、何故知っているんですか?」 「言ってませんでしたっけ? わたしと長門さんはいとこ、ということになっています」 ああ、なるほど。 「緊急連絡先はお互いにしているので学校から連絡がありました。 本当はもっと早く帰って看病しようと思ったんですけど、買い物しているうちに遅くなりまして」 しかしなんでそんな騒ぎになったんでしょうか。 「いくつか理由があるようですが」 喜緑さんは何故か意味ありげに俺を一瞥し、 「要はみんな長門さんが好きなんですね。で、取り合いみたいになったようです。 朝比奈さんと鶴屋さんは中立の立場で説得しようとしたみたいなんですが、 長門さんのクラスメイトはそうは思わなかったようですね。 涼宮さんとよく一緒にいるところを見られてますから彼女たちの考えもわかります」 たしかに。 喜緑さんが溜息をつく。 「あした朝比奈さんと鶴屋さんに会って謝らないとダメですね。一緒に追い出してしまったんで」 「あの2人ならわかってもらえますよ」 「だといいんですが。でも残りの子には反省してもらわないとダメですね。 具合の悪い有希ちゃんの前で何を考えているんだか…… 常識ってものがないんでしょうか? 自分がされて困ることは他人にやっちゃダメでしょ! ただでさえ有希ちゃんは弱っているのに!」 うわ、ちょっと本気で怒ってる。長門に対する呼び方が素になっていますよ。 「あなたにもしっかりしていただかないと」 俺!? 「だいたい有希ちゃんがあなたに……。すいません、筋違いですね。ちょっとその、興奮しました」 「あの、長門の風邪は大丈夫なんでしょうか? 免疫力がなくてひどい状態になるとか……」 「そのあたりは大丈夫です。確かに普段は情報処理で体調を整えていますが、通常の人間くらいの抵抗力はあります。 ただ、いつも情報処理で症状をキャンセルしているので、いきなり体験するとしんどいかもしれませんね」 「そうですか。念のため明日は休みの方がいいと思うんですが」 「嫌」 「長門!?」 いつの間にか目を覚ましていた。なんかパジャマの長門も可愛いな。いかんいかん、鼻の下を伸ばしている場合ではない。 「休まない。学校は行く」 「有希ちゃん、明日は休みましょ。それとも何か用事があるの?」 「用事は、無い。ことも、無い……ない」 えらく歯切れが悪いな。 「とにかく休む気はない」 知ってはいたが意外と長門は強情である。これは説得に時間がかかりそうだ。 「ええと、」 喜緑さんが長門の耳に口を寄せ 「……………」 何故か慌てる長門、そしてちらっと二人で俺を見て 「わかった。休む」 喜緑さん、いったいあなたは何を言ったんでしょうか? 「簡単なことです。ひとつお願いがあるんですが」 はい? 「明日、ここに寄ってくれますか? お土産付きで。長門さんは食いしん坊なんで」 「最後のは余計」 なるほど、食べ物で釣るわけですね。 「わかりました。長門、何食べたい?」 「……あなたに任せる」 しかし喜緑さんは長門に何を吹き込んだんだろうか? 「……」 「……………」 ずっと背後からプレッシャーを受けながら順調に午後の授業は進んでいく。 今朝からハルヒは機嫌が悪い。事の顛末は知っているが、それを知っている事をハルヒに知られるとまずいことになる。 なんかややこしいな。というわけで知らない振りしてたずねる。 「ようハルヒ、長門の様子はどうだった?」 「……」 「……ハルヒ?」 「風邪よ。だから有希は元気がない」 「……んで?」 「それ以上でもそれ以下でもない!」 会話終了。 それ以上は話しかけるな的な視線で睨みつけてきた。なんか最初に会った頃を思い出すな。 そして今に至る。ちなみに長門は休み、古泉も休み、朝比奈さんまで休みである。 朝比奈さんが休んだことによって鶴屋さんも喜緑さんもブルー気味で、まさにデフレスパイラル。 なんでそんな事を知っているかって? 昼休みにハルヒが食堂に行っている間に鶴屋さんと喜緑さんという異色のコンビがうちのクラスまで訪ねてきたからだ。 「ごめんねーキョンくん。みくるがさぁ、ショック受けて休みなんだ」 「ごめんなさい」 「あー、えみりんは悪くないっさ。ちょっとみくるが勘違いし過ぎてるだけだしさぁ」 「ですが……」 「残念ながらみくるは空気を読むというか以心伝心というかちょっとそっち方面が弱くて……」 痛々しい程の気のつかいあい。 「あの、喜緑さんから朝比奈さんに電話してみればいいんじゃないですか?」 「しました……」 「演技で一緒に追い出された事に気が付かなかったことにみくるは落ち込んでいるんだよ……」 ……そうですか。そっちでしたか。 「正確には『そっちも』だね。二重に落ち込んじゃってさ……」 「キョン、いくわよ!」 放課後、強引にハルヒに部室まで連れて行かれる。 「なぁハルヒ、なんかみんな休みらしいんだが今日の活動はどうするんだ?」 「みんな? どういうこと? なんであんたが知ってるの?」 「い、いや、古泉から『今日は体調不良で休むからゲームを持って行けなくてすまない』みたいなメールが来てたし 昼にたまたま鶴屋さんに会って朝比奈さんが休みってこと聞いたし、」 しまった、長門をどうする。 「あたしんとこにみんなから休むってメールは来てるわ。で、なんで有希の休みまで知ってるの?」 頑張れ、俺の灰色の脳細胞! 「え、な、長門からも休むってメールが来たぞ?」 「ふーん」 ジト目で俺を見る。間違いない、疑っている。 「直接電話じゃなくて? 見せてよ、携帯」 やばい、今日は長門からメールも電話も来ていない。つーかなぜすんなりと信じない? それに喜緑さんからの着信を見たらハルヒがどう思うかわからない。絶体絶命だ。えぇい、ままよ、 「おーいハルにゃーん!!」 「あ、鶴屋さん! みくるちゃん休みなんだって?」 救いの女神は鶴屋さんとして降りてくださった。 「そうなんだよ。風邪だってさ。これから見舞いに行くけどハルにゃんもどうだい?」 「当然! って言いたいところなんだけど、困ったことに有希も……、い、いいわ、みくるちゃんのお見舞いね!」 長門の名を出した瞬間、ちょっとだけ顔をしかめたのは昨日喜緑さんに追い出された事を思い出したんだろうか? 「そうね、キョン、あんたは有希の見舞いに行ってきなさい! あたしはみくるちゃんとこに行くから! 鶴屋さん行きましょ! みくるちゃん食欲あるかしら? ケーキがいいかな?」 「う~ん、買って行って駄目なら冷蔵庫に入れとけばいいよ。キョンくんまったね~~」 鶴屋さんは俺に意味ありげなウィンクをして、ハルヒと共に行ってしまった。 その全行程30秒、ハルヒはよっぽど昨日の出来事が気まずかったんだろうか? 即決で長門の見舞いを俺に任せた。まぁ、絶好の機会だ。ハルヒ公認の元、堂々と長門の家に行けるんだからな。 ……公認って。何様だ、ハルヒ? 喜緑さんの分を含めてコンビニで適当にプリンやらヨーグルトやらをカゴに放り込む。 あいつは何が好きだっけな? カレーは売るほどあったな。 そう言えばおでんを一緒に食った覚えが……。 あー。 あの時だ。 朝倉もいたな。 ………… いかんいかん。気にし過ぎだ。 取りあえずデザート系だけでいいだろう。 最近はスイーツって言った方がいいのか? しかし長門は浮ついた流行的な言い回しはしそうにないし、 ハルヒは意外と古風というか流行に鈍感だしまずズレている。 朝比奈さんは長門的、古泉はハルヒ的な感じでやっぱり言いそうにない。 ううむ、時代に惑わされないSOS団か。『SOS団』っつーネーミングセンスもどうなんだ? などとアホなことを考えながらレジを済ませ、長門のマンションに到着する。 手慣れた手順でインターフォンの番号を押し … …… ………? へんじがない ただのしかばねのようだ なわけあるか!! 寝ているのか? それともどこかへ出かけてるのか? ずっと寝ているのも退屈だろうし。 でも俺が行くことを知っているんだから連絡くらいは欲しいもんなんだが。 電話してみるか、と携帯を手に取るといきなり電話が鳴りだした。 【発信者:長門 自宅】 へ? 家にいるのか? 『ごめんなさい。あと10分待って』 開口一番長門が謝ってきた。 「いや、かまわんぞ。でもなんでインターフォンに出なかったんだ?」 『……片付けをしていて………』 「そうか。わかった、待ってるぞ」 ううむ、これで片付けを理由に足止めされたのは何度目だ? 「こっちの部屋は絶対に開けないで」 「だから下手に言われると余計に見たくなるって。『鶴の恩返し』くらい知ってるだろ?」 「……」 今の長門はすぐに赤面する。意外な一面が見れて嬉しい半面、『あの世界』の長門を思い出し胸が痛む。 あの時は躊躇なく元の世界に戻るためにエンターキーを押したが、 はたしてそれが真の正解だったかどうか、今でもたまに考えることがある。 確かにハルヒがいない、朝比奈さんと鶴屋さんは赤の他人、古泉もいない。 いるのは小心者の長門と朝倉だけ。すこし寂しい世界だ。 だがハルヒが変態パワーを持ち、それに群がる宇宙人、未来人、超能力者がいる今こそ変な世界じゃないのか? もしあの時 「?」 長門が不思議そうに俺を見ている。 「い、いや何でもない。それより冷蔵庫にプリンを入れないとな」 あわてて台所に逃げた。 さて結構プリンやらヨーグルトやら買い込んできたからな。冷蔵庫に空きはあるかな、と。 扉をあけるのにはたいして力入らなかった。中からの圧力でパワーアシストされたからだ。 「わたしがやる!」 惜しかったな、長門。あと半秒早かったら間に合ったかも知れん。 しかしよくこれだけ詰め込んだな。ポテチは冷蔵庫に入れなくていいんだぞ。 あとジャガイモは入れると悪くなるからな。食パンは場合によるな。 と、振り返ると今にも泣きそうな長門が立っていた。 「ありがとう。今日は帰って」 「な、長門!? 」 「帰って」 い、いや、そんなに気にするほどの失敗じゃないだろ。 「…………………………………………」 いつものような無表情を頑張って作っているのに瞳はうるうるとした長門。 ちょっと和んでしまったが、その俺の表情が癇に障ったらしい。 「帰って!」 長門にマンションを追い出され、特に用事もなかった俺はそのまま自宅に帰り、 なんとなく悪いことしたな、と思いつつもそこまで悪いことだったか? などと気分が晴れないまま飯を食い風呂に入ってだらだらしながら やっぱ長門に謝っておくか、あいつは今不安定なんだし、と携帯電話を手に取った時着信があった。 【発信者:喜緑さん】 喜緑さんはいきなり謝ってきた。 『ごめんなさい。せっかく来て頂いたのに』 いえ、そんなこと大したことじゃないです。それより長門の方は。 『その、寝室から出てきません。長門さんに謝らせようしたんですが』 いやぁ、悪いのは俺の方で 『いえ、自分の失敗がばれて逆ギレなんて許しません。明日必ず謝らせますから』 その、そんなにおおごとでも 『すいません、有希ちゃんの為でもあるんで。この辺りはきっちりとしておかないと』 なるほど、保護者として長門を教育するにはいい機会なんだろうなぁ。 最後に喜緑さんは俺が持っていった巨大プリンの礼を言って電話を切った。 なかなか売っていない代物らしい。 たしかに珍しいと思って買ったんですが喜んでもらえてなによりです。 ただ一つ残念なことがあるとすればみんなで食べたかったことくらいですね。 なんとなくモヤモヤは晴れつつあったが、明るい気分になれず早めに寝ることにする。 長門、今日もお前は俺の夢に出てきそうだ。 やはり長門は夢に出てきた。 あの世界でオドオドとした長門は俺を恐れ逃げてしまった。 俺は頼みの綱である長門を探しまわったがどこにも見当たらずという焦燥感の中、目覚まし時計でこの世に帰ってきた。 早く長門に会いたい。 まぁ、案外早く俺の願いは叶えられた。 朝、学校の校門前に着くと長門が俺を待っていてくれたからだ。善行は積むものだ。 ただ、しょんぼりとした、そう、まさに『しょんぼりと』俺を待ち構えていたのだが。 「ごめんなさい」 いきなり謝ってきた。 「いや、いいんだ。ちょっと俺も調子に乗っていたかもしれん」 あまりに真剣で申し訳なさそうな顔をする長門を見るとこっちが悪い事をした気になる。 俺も謝っておけば長門も少しは気が楽になるだろう。 「いいえ、あなたは全く悪くない。全面的にわたしが悪い。ごめんなさい」 い、いいから頭を上げろ。 「大丈夫だ、怒ってなんかないぞ」 「本当?」 う、見上げた顔がちょっとかわいい。 「ああ。怒っていない」 「……ありがとう」 早く長門と和解できてすごく楽になれた。 胃の不快感はすっと消え、授業中もよく眠れそうだ。 と、アホなこと考えながら長門と一緒に教室までいくと今度はハルヒが待ち構えていた。 こっちは『しょんぼり』とは程遠い仁王立ちだが、表情は真剣だった。 「有希! ごめんなさい!」 おとといの話なんだろう。 「あなたは悪くない。わたしがイライラしていただけ。見舞いに来てくれてありがとう」 「有希が体調悪いのに騒いだあたしが悪いの」 「大丈夫。来てくれてうれしかった」 一応双方の気が済んだようで予鈴とともに長門は教室に入っていった。 さて俺も 「で、なんであんたが有希と一緒に教室に来たのよ」 いいだろ、流せよそこは。 「たまたまだ。それよりなんで長門に謝ってたんだ? なんかしたのか?」 一瞬嫌なことを思い出したような表情の後、しまった、顔に現れた!的な表情、そして 「何でもないわよ」 無表情。 それっきりハルヒはだんまりを決め込んだ。 「ようキョン、ラブラブだな、それとも『ラヴ』がいいか?」 ち、谷口か。タイミングが悪い上に下品なやつだ。 席に向かいつつ戯言を聞き流す。ってラブラブってなんだ? 「しっかし最近の長門はなんかかわいいな。 眼鏡もだがちょっと表情でるだけであんなにレベルが上がるとは。 俺もまだまだ見る目がないな、クソッ」 心底悔しそうな谷口。アホか。 「お前、涼宮は見間違えたが、早い段階で長門を見つけ出してるからな。正に『機を見るに敏』ってやつだな、キョン。」 な、なんでここでハルヒと長門の名前を出すんだ! しかも面倒なハルヒの近くで 無表情だったハルヒの横顔がこわばるのが見えた。 谷口、帰れ! 早く席につけ! 始業時間だ! 「きっちり長門をゲットしてるんだからなー。待ち合わせかこのヤロー」 「おーい早く席につけー」 岡部、遅いぞ……。 ハルヒの何とも言えない不機嫌オーラを背中に感じつつ数学の授業は進む。 初めて授業が終わらないでくれという気になった。 しかし時間の流れは正確無比で、 そういや朝比奈さんは時間の流れはパラパラ漫画みたいなものだと説明していたが 紙の数は増やすことはできるのか? 増えても紙が薄くなったら意味はない? などとSF物理学もどきを思考しているうちに きっちりと終了時間が来た。 ガタン、後ろの席から大きな音、そして首根っこを掴まれ、 「す、涼宮!? なにすんだ!?!?」 「いーから来なさい!!」 谷口がハルヒに拉致されていった。 「キョン、谷口は何かしたの?」 知るか。……知ってるよ、今朝の発言の真意を問いただす気なんだろう。 「ふーん。僕の勝手な予想だと涼宮さんはキョンの外堀を埋めようとしているんだと思うんだけど」 国木田、実のところ同意だ。だから俺は行く。 「急いだ方がいいね。間違いなく次は長門さんの番だから」 ああ。……なんでお前まで長門の名を出すんだよ。 廊下から6組を覗くと長門は女子に囲まれていた。ここから長門を連れ出すのか? 絶対無理だ。 待てよ、このバリケードを突破するのはさすがにハルヒでも無理じゃね? よし、君たちに託す。頑張れ6組女子連合!! 「あたしは有希に用があるの!!」 「わたし達も長門さんに用があるのよ!」 最悪だ。まさかハルヒが特攻かまして長門を連れ出そうとするとは思わなかった。 いや、その可能性に気付くべきだった。 なにせ転校直後の古泉を拉致したり商店街での物資提供交渉を成功させた女だ。躊躇するわけない。 「あんた5組でしょ!? なんで勝手に入って来てるの?」 「いいじゃない、教室移動で入ったり出たりしてるでしょ」 「次の時間は違うでしょ」 大声でやりあっているから当然野次馬も集まる。 長門は、あいつは無事なんだろうか。人ごみでどうなっているかよくわからない。 すると 「……」 マンガの喧嘩のシーンで当事者が囲みからこそこそ出ていくシーンがあるが まさか本当にそんなことができるとは思わなかった。 「長門!」 6組の男子連中にカバーされ長門は教室の外に出てきた。 意外と長門は6組に溶け込んでいるようだ。 「大丈夫か?」 「だ、大丈夫、それよりトイレに……」 あ、ああ。早く行ってこい。 「おいキョン、早く涼宮を回収してくれ!」 顔なじみの6組の奴に文句を言われる。 「うちの女子が涼宮と喧嘩するのも困るがそれ以上に長門さんが迷惑するだろ」 す、すまん。 「クソ、何だって長門さんは……まぁいい、それより」 「早く連れ帰ってくれ!」 何とかうちのクラスの連中の手を借りてハルヒを引っ剥がす。 「何すんのよキョン! 国木田! あんた強く引っ張りすぎよ!」 「アホか! なんで他のクラスで騒ぐんだ!」 「あたしは有希に用事があったのよ!!」 「時間切れだ」 移動教室をはさんだりしてなんとかハルヒを6組に突入する事態は避けることに成功した。 が、そもそも何故ハルヒが長門を追いかけているかを俺は失念していた。だから 「いいわ。直接執行よ」 昼休み、ハルヒは食堂へ行かず俺を端まで追いつめた。 「何がだ」 「キョン、あんた今朝有希と何があったの!」 不覚にも答えに詰まってしまった。 「い、いや、たまたま会っただけで」 「谷口は有希があんたを待ってたって言ってるわよ!」 あんのやろー。 しかしここでふと気付いた。 「なんで長門が俺を待ってるのをハルヒは怒ってんだ?」 「!、え、と」 ハルヒが固まる。 「昨日、長門の家に行ったらあいつが寝ていたんだ。 で、世話役として喜緑さんがいて、ああ、知ってるか? 長門と喜緑さんはいとこらしいぞ」 『喜緑さん』の所でハルヒの表情が硬くなるのを見逃さない。 どうも今のハルヒにとって喜緑さんは鬼門らしい。 「んで、買っていったプリンやらを渡して帰ったんだ。今朝はその礼を言われた」 とっさにこれだけ嘘がスラスラでるとは天才じゃないか? ところどころ真実が交る理想的な嘘だ。 「長門を追い回すほどの内容か?」 「もういいわよ、わかった」 無事ハルヒを納得させ、納得したのかはともかく静かにさせ、団活の時間となる。 ここで俺はミスを犯した。長門と口裏合わせしなかったことだ。 今の長門は若干空気が読めない子になっていることを忘れていたのだ。 だから 「キョン、なんで嘘ついてごまかすの? 有希と喧嘩したんでしょ!」 あっさり長門が自白させられた。全部。俺が止める間もなかった。 が、俺も半分開き直っている。 「俺と長門が喧嘩して仲直りしたことで何で俺が責められるんだよ」 「え、あ、でも有希を泣かせたんでしょ!」 「それはわたしが悪い……」 「有希は黙ってて」 「お前が洗いざらい聞くからせっかく隠してた失敗をお前に聞かれることになったんだぞ」 ここは強気に攻めてみる。 「俺は長門の名誉を守るためにあえて黙ってたんだ」 「それほどのものではない」 長門、ちょっと黙ってろ……。 「……もういいわよ! みくるちゃん、お茶!」 今日も古泉は来なかった。 やっと来た金曜日、ただ事態は悪化する一方だ。 ハルヒの機嫌は悪いままで古泉は今日も欠席。もしかしたら今この瞬間も戦っているのかもしれない。 今日は長門と相談し、あんまり学校では接触しないことにしていたが、 朝からブラックオーラが溢れるハルヒには大した対策にはなっていない。 そもそも論として何故ハルヒがこんなにイライラしているのかが不可解だ。 この10日間は長門のパワーが無くなっている。それに関係するのか? ハルヒのメンタル的な影響を与えた事件と言えば 土曜日の探索での長門のダウン、長門の眼鏡を壊した時と 長門の見舞いで喜緑さんに怒られた時かだと思われる。 眼鏡の方は弁償で片がついているから、やっぱりダウンと見舞いの方だよな。 ハルヒは長門を大事に思っている。その長門が弱っているから気が立っている。……しっくりこない。 これだと昨日の騒ぎ方が妙になる。長門を大事にし過ぎて暴走したのか?。 はっ。 ハルヒは長門の事が好きなのか? その、恋愛的な意味で。 だとしたら俺や6組女子、喜緑さんに嫉妬しているがゆえに機嫌が悪い、と説明がつく。 あいつは男の何パーセントかがホモだと抜かしていたが、 それは裏返しの意味、女の何パーセントかがレズだと言いたかったのか。 朝比奈さんにベタベタしている理由もわかった!! アホらし。 一応団活はあったが朝比奈さんはビクビクしてるし長門は窓際で小さくなっている。 自分の気配を消そうとしている風に見えるが、逆になんか目が行く。 今までのように普通に本を読んでいてくれればいいんだが。 あまりの空気の重さに思わずハルヒを諌める。 「おい、ハルヒどうした? お前らしくないぞ。何かあったのか?」 「うるさい! あんたには関係ないでしょ!」 「関係ないってったって長門がおびえているだろ。おかしいじゃ」 「『長門、長門』っていったいあんた有希の何!? いっつもいっつも、有希やみくるちゃんの肩持ってさ! あたしの……」 はっ、としたような、その後バツの悪そうな顔で 「帰る」 ハルヒはカバンを持って出ていった。 「キョンくん! 涼宮さんを追いかけてください!」 「朝比奈さん、それはできませんよ。やっちゃいけません」 「いいから追いかけてください!」 「朝比奈さん! 駄目なんです。ここで追いかけたらハルヒのためになりません。」 「キョンくんはわからないんですか?」 「ハルヒにはもう少し大人になってもらわないと行けません」 「そうじゃないんですが、……涼宮さんの機嫌が悪くなりすぎるとそれだけで危険なんです」 「わたしがいく」 「長門!?」 「わたしが涼宮ハルヒの機嫌を悪くしている原因。行って説得する」 「お前が原因だと限らないだろう! それに説得って何を!?」 「……わからない。でもわたしが行くべきだと思う」 飛び出して行く長門。一瞬迷ったが嫌な予感がしてすぐ追いかける。 階段の方からハルヒが何か大声で言っているのが聞こえたが、『有希が』と叫んでいる部分しか聞き取れなかった。 まずい、ここでハルヒが反則パワーで長門に何か変な事をしたら「普通の人」並みでしかない今の長門だとひとたまりもない! 走る俺、遅れて朝比奈さん。 追いついたのは階段の踊り場。 状況はもみ合いになっているハルヒと長門。 なんでよりによってその場所なんだよ! その場所は俺が 「キャッ!!」「あっ!!」 どっちが出した声かわからない。 わかるのは腕を振りほどかれた長門の体が勢いあまって後ろから階段の下に落ちるコースにあることだった。 「長門!!」 この時俺がイメージしたのはハンマー投げの選手だった。 体全体でハンマーを回転させ、全エネルギーをハンマーに乗せて投げだす。 走ってきた勢いで何とか長門に追いつき、腕を掴んで体全体で回転、踊り場の方へ長門を放り投げる。 少々乱暴だがハルヒか朝比奈さんが受け止めてくれるだろう。 ちなみに「だろう運転」は危険だ、と小学生の時、学校に自転車の安全指導に来た警察の指導員が言っていたな。 例え歩行者や自転車の立場でも横道からは何も来ないだろう、と思いこんでいてはダメだと。 確かに他人は信頼できるとは限らないからな。だがハルヒや朝比奈さんは信頼できる。長門は間違いなく信頼している。 古泉もまぁ、信頼できるな。……「まぁ」はあいつに悪いか。今は十分信頼しているぞ。 いやぁ、結構考える時間ってあるんだな、それなら頭をガードすべきじゃないか? と気付いた瞬間、強い衝撃と痛みが走り、俺の意識は無くなった。 夕陽の差し込む部屋。白い壁が金色に染まる。 窓の外から木の影が長く延びる。 どこかで見たことのある光景だ。 しゃくしゃくと何か水っぽさの感じる音。りんごだな。リンゴ!? 「お目覚めですか?」 「……ああ」 「まったくあなたには驚かされます。正直言うと呆れます。まさかまた同じ階段から落ちて同じ部屋に入院されるとはね」 で、同じように古泉がリンゴをむいている。 「……好き好んで入院してるわけじゃねえよ」 「好き好んでなら本当に1年くらい入院してもらいますよ。大変だったんですから」 「すまん」 「前は朝比奈さんが泣きじゃくっていましたが、今回はそれに長門さんが加わっていましたからね。 長門さんの場合泣き叫ぶって感じでしたが。」 「! 長門! 長門はどうした! っていたたたぁーーって痛ってぇ!」 全身に激痛が走る。なんだ、体が動かせん! 腕が固定されてるし! 「あ、今回は外傷ありです! 気をつけてさい。」 「俺はどうなってるんだ? ってそれより長門は!?」 「前も言いましたね、あなたがうらやましいと。いやあ本当にうらやましい。若干腹が立ちます」 古泉が指さす。少し離れた窓際の荷物置きの台に並んで長門とハルヒが座っていた。お互いにもたれながら眠っている。 「あなたが目を覚ますまで頑張る、と涼宮さんと長門さんが張り合っていましたが 1時間くらい前に二人とも力尽きてしまいました ちなみに今日は土曜日、午後5時前です。あなたはほぼ24時間眠っていた計算になります」 相変わらずへたくそな包丁使いでウサギか何だかわからなくなったリンゴのかけらを 古泉は俺に差し出す。いらねーよ、つーか腕がそこまで上がらない。 それに気付いた古泉はすこし申し訳ない、という表情をした後、物体Xを皿に置く。 「あなたは脳震盪と右肩脱臼と全身の打ち身、若干の擦り傷です。 レントゲンやCTスキャンやら一通りの検査の結果、命に別条はなしです。 しばらく検査通いになるとは思いますが」 若干くらくらするのは寝過ぎなのか頭を打ったせいなのかよくわからない。 「んんー、キョン。キョン!」 俺と古泉の会話で気付いたのか、先に目を覚ましたのはハルヒだった。 「よ、ハルヒ。よく寝たか?」 「よく寝たかじゃないわよ、このバカキョン!! この!!」 涙目のハルヒ。すまん。だが半分以上お前が原因では…… 「ん、え、?」 騒ぎで長門が目を覚ましたようだ。 「長門、大丈夫だったか」 「大丈夫。ごめんなさい」 長門の目が潤みだす。 「わた、わたしのせいであなたを、死、死なせ、」 急速に涙声になっていく 「いや、いいんだ長門。ちゃんと生きてるし」 「うわぁぁぁん!」 もう号泣に近い泣き声をあげる長門が俺に抱きつき 「ぐゎああああああああああ!!!」 電撃が走った! 「キョ、キョン!?」 「長門さん!! 離れてください! 怪我が!!」 「あ! ごめんなさい!!」 ……死ぬかと思った。 俺が目を覚ましたことによって検査が始まり、その日は終わりかと思っていたが、 晩飯後にハルヒが一人で病室にやってきた。 「よう、帰ったんじゃないのか?」 「うん、ちょっとあんたに用があって」 神妙な顔つきのハルヒ。うちの親は一度来たが着替えや必要なものがあるとかで家に戻っている。 「えっと。まずは謝るわ。ごめんなさい。あんたを大怪我させちゃった。下手したら死んじゃうところだった。ごめんなさい」 深々と頭を下げる。すぐ頭をあげ、 「キョン、あんたに聞きたいことがあるの」 真剣な瞳が俺を見つめる。 「あんた、有希のこと、……好き?」 「正直」 「よくわからん。もちろんLikeではある。それに気になる存在だ。 今はちょっと調子悪そうだが普段は頼りになるし、 見た目も可愛いし意外と強情な所も可愛いし、」 後はとてもじゃないがハルヒには言えん内容だ。 「そうだ。俺は長門が好きだ」 「そう」 「よかった。もし否定でもしたらぶん殴るつもりだったから」 ハルヒの声が少し震えている。 「あたしね、有希と話し合ったの。あんたについて」 ハルヒはベッドのそばのパイプ椅子に腰掛けながら語りだす。 「あそこまであんたが有希のことを大事にしてたなんて」 「もしあの時長門じゃなくてお前だったとしても俺は飛び込んだぞ。たとえ古泉や谷口だったとしても」 「それじゃない。あんただったら岡部でも飛び込むでしょ。そうじゃなくて。 ………… まぁ、なんとなくは分かってたわ。みくるちゃんをデレ~ンと見てる態度やあたしに対する態度と違って 有希には気づかいとか配慮が感じられたし」 …… 「あんたがみんなに気配りしてるのはわかるわ。でも有希には特別だったでしょ。 雪山の嵐のときに、あ、違う、これは間違い、えっと」 よかった、まだあれを幻だと思い込んでいるようだ。 「そうね、あんたが最初に階段から落ちた時あたりからガラッと変わったわ。病院で何かあったの?」 「ああ。それ以外も色々とな。詳しくは言えないが」 長門が自分と世界を変えちまった事件。そう、あれがきっかけだった。 実は長門も普通の女の子らしい事を考えていたことがわかったあの事件。 まぁ起こった事のスケールは異次元クラスの大きさだったが。 さすがにわかったさ。長門が何を考えていたかなんて。 だが俺はこの変な日常が崩れてしまう事を恐れていた。だから気付かないふりをしていた。 わざと長門に気のないふりまでした。 とんでもないチキン野郎だぜ。 沈黙。 「そっか」 ハルヒは小さくつぶやいた。 スマン、ハルヒ。あの世界の内容は俺と長門だけの秘密だ。 「そろそろ有希が来るわ。10分だけ時間もらったの。最後にあたしからお願いがあるんだけど」 「なんだ?」 「一発殴らせろ!!!」 いきなり強烈なビンタが俺の左頬に炸裂した! 痛ってぇ!!! 俺は怪我人だ! しかも頭打ってるだろ! ちょっとは遠慮しろ!! 「あんたの事好きだったんだから! 馬鹿! 鈍感! いつだってあんたのこと想ってた! そりゃはっきりしなかったあたしも悪いけどさ、思わせぶりな態度とらないでよ! のらりくらりとしてたくせに、たまに意識させるようなことしたりさ!」 え 俺の事が? ま、まて、正直戸惑うぞ。 マジか、マジなのか!? 確かにそんな素振りを感じたことがある。いやしかし、お前は恋愛感情なんて気の迷い的な事を… 大体好きなら好きでもうちょっとだな、 「あたしの心の痛みを少しでも、。ぷ、ぷぷ」 涙声での衝撃の告白と罵倒が途中で止まった。なぜ笑う? 「ぷぷ、ぶぁっはっはっは!!!!!!!!! なにあんたの頬!! 見事な紅葉よ! あははっっ!! わ、我ながら完璧すぎるわ!!! ひぃぃ!!」 ベッドの端をばしばし叩きながら爆笑するハルヒ。さっきまでの雰囲気は吹っ飛んでいる。 それでこそハルヒだ。 ところで鏡をかしてくれ。俺はどうなっている? だんだん頬が熱くなってきたぞ。いや感覚がなくなってきた……。 控え目なノックの後静かにドアが開く。 「いい?」 長門が顔を覗かす。 「いいわよ! 早くこっちに来なさい!」 ハルヒが元気な事を訝しがっている。それとも俺が横目で対応しているからか? 部屋に入って、俺の顔全体が目に入り、 「!!!」 「サイコーでしょ!! こんな完璧な紅葉、あたしの数々の傑作作品の中でも格別よ! ほら、早く写メ撮って…… あれ?」 長門は目をまんまるにして固まっていた。驚いて固まって車に撥ねられるのって猫だったっけな? 「いやぁ、殴られちまって……」 ともかくこの場を何とかしたいと思い長門に微笑む。と、 「ぶっ」 慌てて長門が両手で口をおさえながら後ろを振り向きしゃがみこんだ。 全身がぷるぷる震えて時々ぷっ、だの、くくっ、だの声が漏れる。 「あっはっはっは!! なんちゅー顔よそれ!! 有希を笑わせるなんてよっぽどよ! キョン笑うな! いや笑え! 写メに撮ってみんなに送信するわ!!」 なんだか俺の顔は凄いことになっているらしい。第一、とっくに頬の感覚がない。 「こら! 苦笑じゃない! ちゃんと笑って! そうじゃない、もっと自然に笑いなさい!」 まあかまわない。俺と長門、ハルヒの間に流れる気まずい雰囲気が変わるなら大歓迎だ。 「そう、それ! いい笑顔ねキョン!」 一瞬復活しかけた長門が俺を見てまた撃沈した。 冷たいペットボトルをもらい、頬を冷やすことでなんとか腫れは引いてきた。 そろそろ面会時間も終わるし、うちの親も戻ってくる頃だ。 ハルヒが長門に目くばせする。こくこくとうなずく長門。 長門は立ち上がり俺の横まで来た。 そして 「あなたに聞いて欲しい事がある」 今までのオロオロした長門ではない。どうした? 「わたしはあなたが好き。大好き。付き合ってください」 そういうことだったのか。 もちろん答えは決まっている。 「ああ。ありがとう。俺もお前が好きだ」 え、え、という喜んでいいか迷う表情。そうか、ちゃんと言ってやらんとな。 「OKだ。長門、付き合おう。俺たちは恋人同士だ」 両手を口元に持っていって固まる長門。お前も女の子らしい仕草をするんだな。 目元が潤みだしている。 「よかったじゃない、有希、よかったじゃない」 そう言うハルヒも泣いている。すまん。 「キョン、有希を大切にしなさいよ! ちょっとでも有希にひどいことしたらあたしが100倍返ししてやるんだから! これからずっと有希に確認するからね! 覚悟しなさい!!」 これだけ言い放つとハルヒは長門にがしっと抱きつき泣き出した。 つられて長門がまた泣きだしハルヒと抱き合う。これが女の友情なのか? 若干置いていかれ気味でちょっと困っているところに来たノックは救いの神かと思ったね。 「あの~」 朝比奈さん、助かります。 「キョンくん、女の子を泣かせちゃいけません!」 ち、違います!! 「キョンくんは女の子の気持ちを弄ぶ天才ですからね。涼宮さんと長門さんをどれだけ苦しめてきたか知ってますか?」 そう言う朝比奈さんもどんどん涙目になってきた。 え、えっと。これは 「おや、これは修羅場ですね。退散したほうがよさそうだ」 って古泉、逃げんな!! こっちにこい。なんか勘違いしてるだろ! 「キョンく~ん、着替え持ってきたよ~」 両親と妹が病室を覗いてくる。なんてタイミングで来るんだよ! あーもー知らね~。 日曜日は谷口や国木田、鶴屋さんも見舞いに来てくれた。 長門やハルヒ、朝比奈さんに古泉までまた来てくれたのは素直に嬉しかったが、 いきなりハルヒが俺と長門が付き合う事を発表するとは思わなかった。 おかげで谷口に首を絞められ、鶴屋さんにさんざん冷やかされることになった。 国木田は月曜朝一にクラスで宣伝してくれるそうだ。いやぁ、ありがたい。 また困ったことに長門が冷やかされることにまったく動じず、 かえってのろけるような様子だったため一同はさらにヒートアップ。 ……長門、お前は相当感情を抑えていたんだな。 検査や治療でまとまった空き時間がなく、あまり皆としゃべることができなかった。 特に鶴屋さんが持って来てくれたロールケーキを結局食いそびれたのは残念至極だ。 確かにみんなで食ってくれ、とは言ったが全部食われるとはな。 事実を知った時長門がそっぽを向いていたから犯人はわかったが。 小食になったんじゃないのか? デザートは別腹なのか? そして。 ずっと寝ていたのとこれから起きる現象について思う所があったため、 俺は深夜というより明け方に近いこの時間に起きていた。 そして病室のドアがゆっくりと開くのを当然のように眺めている。 「よく入ってこれたな」 長門、情報操作の能力がなくてもやっぱりお前はお前だな。 「……実は見つかった」 へ? 「ただ、それが機関の森さんだったからここまで通してくれた」 俺があっけにとられていたら、さらに長門が追加情報をくれた。 「看護婦さんの格好をしていた」 機関っていったい…… 「元に戻る瞬間をあなたと迎えたい」 ああ、せめてその時間は起きていようと俺も思っていたところだ。 まもなくこの眼鏡長門ともお別れだ。 「色々あったな。大変だったがお前の意外な面がいっぱい見れて楽しかったぞ」 長門が顔赤くし横を向く。 こんな光景をもう見ることはもうないんだろう。 「いろいろとお世話になった。ありがとう」 無言。 こういう時、何を語るべきなんだろうか。俺も長門も何をしゃべるか話題を探している。 そうこうしている間に、 「時間」 長門が天を仰ぎ見る。 そして姿勢を正し、俺を見る。 「おかえり」 「……ただいま」 長門が眼鏡をとる。元に戻った合図かもしれない。 「あなたには多大な迷惑をかけた。謝罪する」 「いや、かまわない。それより聞きたいことがいっぱいある」 「わたしもあなたに聞いてもらいたいことがある」 帰ってきた長門は淡々と語る。 「もうわかっているかもしれない。わたしの性格について」 「ああ。前の変わってしまった世界やこの10日間の方が素のお前なんだろ」 「そう。あの弱弱しいのが本当のわたし。改変時は自分の記憶や行動原理まで改変してしまったため この10日間の方がわたしの本当の素性に近い。 通常時のわたしは情報操作で各種身体能力を強化すると同時に精神面でも補正をかけている」 確かに口調もいつもと違ってたし、若干いらない事までしゃべったりとグダグダだったな。 おそらく情報操作でガチガチに固め、揺らぎが出ないようにしていたんだろう。 無愛想無関心無感動にしなければいけなかった程、素の自分に自信が無かった。 「意志薄弱で臆病者。怖がりで、すぐにうろたえてしまう。近眼だし運動能力も劣っている。 頭脳については一般以上だがあなたほどではない」 「おいおい、お前が俺よりアホなはずはないだろ」 「あなたは自分の能力を過小評価し過ぎている。それと努力が足りないだけ。 それに比べわたしは情報操作のハリボテ。中身が伴っていない。 その証拠に片付けすら満足にできずあなたに当たってしまった」 唐突にあの世界の朝倉の言葉が脳裏に蘇る。 『ああ見えて長門さんは精神のモロい娘だから』 『あなたを脅かす物はわたしが排除する』 朝倉は任務上のバックアップだけでなく、素の長門本人の世話をしていたのだろう。 10日前、長門の部屋に喜緑さんがいたのも長門の素性を知っていたからに違いない。 いきなりパニックになるのは想定外だったもしれないが。 「嫌いになった?」 なんでだ? 「今までわたしは偽っていた」 …………で? 「あなたに嘘をついていた」 どうも長門は罪悪感でいっぱいらしい。 「かまわないさ。情報操作で自分を作り上げた長門も、力が無くなってオロオロする長門もみんな長門、お前だ。 俺はみんなひっくるめてお前が好きだ。俺の長門だ」 「……ありがとう」 すこし照れた様子、といっても口元が緩んだ程度、だったが、急に表情を引き締め、覚悟を決めたように話を切り出した。 「わたしに関わった人物の、この10日間の記憶を操作しようと考えている」 「な!?」 「周囲にインパクトを与えすぎた。今後の活動に支障が出る恐れがある」 「お前の親玉の指示か?」 「違う。情報統合思念体はこの10日間の出来事を認知することはできない」 ん? 時間も超越していなかったか? 「この10日間は食のためこの惑星の出来事に関知することはできない。 たとえ時間軸をずらしてもこの10日間にはアクセスできない。 情報統合思念体が感知できるのはこの10日間が終わり、『歴史』として伝わる部分のみ。 『起きてしまった事』として扱うしかない」 お前の親玉も弱点はあるんだなあ。 ん? 「おい、前にお前が世界を改編したときはお前を処分しようとしてたじゃないか。 あれも『起きてしまった事』じゃないのか? ちゃんと戻したんだから処分までいらなかったんじゃ?」 「それは………禁則事項」 またごまかされたな。 「それとお前はズルい事を考えていないか?」 「……よく意味がわからない」 何のこと? とごく僅かに目元が緩み、瞳の力が和らぐ。うむ、俺の長門感情解析力は劣っていないな。 「自分が起こした騒動をなかったことにしようとしていないか?」 一瞬間が空き、眼鏡の無い長門がみるみる赤面していく。これは俺に素の自分を見せてくれているのか? 「………違う、その意図はない。確かに恥ずかしい事も起こした。 ただ今回の行動は今までのわたしとあまりにかけ離れた行動ゆえ 記憶の操作を行わないと今後の活動に支障が生じる可能性がある」 「人間なんだ。みんな失敗する、ドジをする。俺なんかもよく失敗するし、朝比奈さんはドジの塊だ。 まあこれはハルヒの望みのせいもあるだろうが。そのハルヒも結構取りこぼしが多いだろ? 古泉だって意外と不器用だ。あいつの字を見たか? ひどいもんだ。 谷口、はいつもか、国木田や鶴屋さんだってヘボい所あるだろ? ってあったか? ともかくそんな中お前ひとりが完璧超人だ。ズルくないか?」 長門は無言のまま床を見つめている。 「6組でもお前の周りに人が増えたろ? 色々と手伝ってくれたろ? みんなお前の違った一面が見れて嬉しかったんだ。お前と仲良くしたかったんだ。 アホの谷口は見る目がなかったと悔しがっていたぞ」 そして一番の懸念を長門にぶつける。 「長門、まさかお前が告白して、恋人として付き合うことにしたことも無いことにしようとしてるんじゃないだろうな」 「あなたは涼宮ハルヒの鍵。わたしは涼宮ハルヒの観測者。それだけ」 「本気で言っているのか?」 無言。 「あの時お前は勇気を振り絞って告白してくれたよな。ハルヒも泣きながら祝福してくれたよな。 鶴屋さんに冷やかされたり、国木田がクラスで言いふらすと言った時、 実はまんざらでもないことを見透かされてハルヒに呆れられたことも無かったことにするのか」 無言。 「本気なら今すぐ出て行ってくれ。情報操作でも何でもするといい。その代り俺のお前に関する……」 全部は言えなかった。長門が震えながら嗚咽を殺していたからだ。 「すまん」 「嫌。……あなたと………ずっと一緒にいたい」 泣き声をこらえ、絞り出すようにこたえる。 自分と世界を変えてしまった時の長門ではなく、 力を失った状態の長門ではなく、 クールでクレバーで完璧なはずの長門が歯を食いしばり大粒の涙をぼろぼろこぼしている。 「ああ、ずっと一緒にいよう」 長門が俺に抱きつき泣き出した。胸が涙で濡れる。 実のところ脱臼の部分が抱きしめられて思わず叫びそうになったがなんとか堪えきった。 長門の心の痛み、これまでの苦悩に比べるとこんなもの大したことではない。 長門が泣いていたのは5分程度だった。あとは俺に抱きつき顔をうずめゴロゴロしている。 時々「んふ」とか聞こえるのがたまらなくいとおしい。どうにかなってしまいそうだ。 なんか世間一般でラブラブ物が常に流行っている理由がよく分かる。 「おい、長門?」 「ん」 「……長門さん?」 「ん~」 ヤバい! 俺の理性が残っている間に何とかしないと! 長門の気をそらせるために何か違う話題は、と少し疑問に思っていた事を聞いてみる。 「なぁ、長門。お前は体調不良でも学校や探索に行きたがったよな。 危険を避けるためにも休む方が得策だと思ったんだが」 長門が顔をあげる。顔が近い。か、かわいいぞ。その、『彼女』『恋人』的なひいき目抜きでかわいい。 そのかわいい顔が赤くなり一言、 「……あなたに会いたかったから」 そのまま自然に長門の顔に近づく。 長門の目が閉じる。俺も。長門の吐息を感じる。 「よろしいですか?」 「「!!!!」」 長門が跳ね起きる。ぐぁ!! 脱臼の肩に響くぅう!!! 「森さん!」 「お楽しみ中、申し訳ありません。そろそろ朝なんで長門さんはお帰りになられた方がよろしいかと」 お楽しみってそんな誤解を受けるような言い方しないでください。……誤解じゃないかもしれませんが。 「……ノックして入って欲しい」 「しましたが返事がなかったので、失礼かと思いましたが入らさせていただきました」 ……本当に? 聞こえなかった。まあ長門が聞こえていないんだから仕方ないか。 「あと今日は月曜日ですよ。学校があるのでは?」 「! あとで来る!」 げ、文字通り姿を消した! 「あの、森さん……」 「……今朝、長門さんはここには来ていませんよ。何も知りません。 特に急に姿が消えたなんてことは絶対ありえません!」 さすがの森さんも度肝を抜かれたようだ。 「大丈夫です。安心して付き合ってください」 月曜日の昼食直後に来た面会者は朝比奈さん(大)だった。 「涼宮さんが納得する失恋であれば良かったんです。むしろそのほうが涼宮さんが精神的に成長しますし。 当然恋愛成就が一番かも知れませんが、失敗の無い人生経験というのもそれなりに危険が伴いますし」 教師風のコスプレ?となっているため学校関係者として自然に面会に来れたらしい。 「若干長門さんに依存気味な失恋で、しばらく引きづるかもしれませんがそこはソフトランディングということで。 ちなみにこの時代の涼宮さんは長門さんか、あの頃のわたし以外がキョンくんと付き合っていたら 納得しなかったと考えられています。たとえ鶴屋さんでもアウトでした」 となると危ない橋を渡っていたんですかね。 「んー、そこまでは。3択問題におまけのギャグの答えがあってそれ以外は正解ってやつかな」 お笑い芸人的にはギャグの答えで正解なんだろうが。 「そのあたりはお友達にお任せするとして」 谷口…… 「でもホントのところは」 朝比奈さん(大)は真顔になる。 「キョンくんはキョンくんの人生を歩いてくれればいいです。 当然、涼宮さんには涼宮さんの、長門さん、古泉くんも。 確かに我々や機関、情報統合思念体それぞれ考えているところはありますが、 個人的には無視しちゃってもいいと思っています。当事者の当然の権利です。あ、これはオフレコですよ」 それって 「時間です。じゃ、キョンくんまたね。またねの意味、わかるよね?」 え、ちょっと!? 止める間もなく朝比奈さん(大)は病室を出ていった。ううむ、まだなんかあるわけですね……。 朝比奈さん(大)が消えて1時間後、今度は喜緑さんが見舞いにやってきた。 「今回は本当にありがとうございました。こんなに大騒ぎになるとは予測していませんでした。 特にあなたを入院させる結果になって。本当にごめんなさい」 いえ、結果的に俺にもいい感じになったんで。 「本当にすいません。長門さんの動きが想定以上にぶれまして……」 時空を超えている存在の情報統合思念体でもわからないことがあるのか。 前の改変でわかったんじゃないのか? 長門に暴走癖?があるのを。 「実は有希ちゃんがあなたを好きになってから様子がおかしかったんです。 もともと無口なほうでしたが、極端に感情を表さなくなって。 任務とあなたへの感情とのせめぎ合いでどうしていいかわからなくなったようで」 あの性格の半分は俺が原因だったのか。 「涼宮さんのほうも今回いろいろな行動パターンを出してくれて観測側としては大助かりです。 惜しむらくは情報統合思念体が食だったためリアルタイムで観測できなかったことですね。 ここだけの話ですが有希ちゃんは情報統合思念体にかるく嫌味を言われています。 『何故今回のタイミングだったのか』と。有希ちゃん的にも今回は棚ぼたな感じだったんですけどね」 ははは。当事者の片割れだけに笑ってごまかすしかない。 ええと、そう言えば 「あの、喜緑さん。長門が体育で倒れたとき、学校を休めと言ったのになかなか納得しないと気がありましたよね。 あの時どうやって長門を説得したんですか?」 「あれですか」 喜緑さんは微苦笑を浮かべた。 「『休んだらキョンくんが見舞いに来てくれますよ』って言ったんです」 ……そ、そうでしたか。 「実はあの日有希ちゃんは大泣きして大変だったんですよ。 あなたに嫌われてないか心配しちゃって。でも怖いから直接電話出来なくてわたしが電話しました。 長門さんはかわりに謝ってもらえると勘違いしていましたが」 そんな事があったんですか。 「直接あなたに謝る事が出来て結果良かった、と言っています。何事も経験ですね」 さて、と喜緑さんは立ち上がる。 「そろそろ有希ちゃんや涼宮さんたちが来るころ合いです。鉢合わせしないようにわたしは帰ります」 ありがとうございます。ところで今日の授業はどうされたんですか? 「生徒会の用事で抜けていることになっています。 ……生徒会だからって授業を抜ける理由にはならないんですが先生方までそれを信じちゃうんですから 肩書きって面白いですね」 えっと、それって情報操作ですよね? 「ふふふ」 やっぱ喜緑さん、あなた怖いです……。 「では長門さんをこれからもよろしくお願いしますね。泣かせたら許しませんよ」 え、ええ絶対。 ……ハルヒにも同じこと言われましたが迫力が違いすぎます。 「涼宮さんにとって今までのあなたは気になる存在、恋人候補、片思いの相手という感じだったというか、 まぁそんな存在でした」 ああ、どうやらそうだったらしいな。 「そうだったんですよ。どれだけイライラさせられたか」 すまん。 古泉はトランプをシャッフルしながら俺を責める。 「今ではそうですね、親友である長門さんの彼氏といったところでしょうか。つまりは付属品。 でなければ失恋相手と平然と付き合ってられるはずがありません。 ……冗談ですよ。でも長門さんの存在があることによって精神の安定を図っている部分はあるはずです」 放課後の文芸部部室、長門とハルヒは掃除当番でまだ来ていない。 あれ以来長門は掃除のクジの細工を止め、きちんと役割を果たしている。 朝比奈さんは、はて? 進路相談か何かなんだろうか? 「長門さんを冷やかして楽しんでいるんですよ。涼宮さんが次々と白状させています。 この前はひとつのソーダにストロー2本入れて飲んだらしいですね。どこの昭和ですか?」 く、長門を口止めしなければ。 「まぁ長門さんも実は誰かに聞いてもらいたかった節もあるようですが。 朝比奈さんが長門さんののろけがすごいと言ってましたよ。あの朝比奈さんを呆れさせるとは」 やっぱ自重させるべきだな。つーか長門がのろける姿が全く想像できん。 それ以外にも若干お花畑があふれ出た長門には少々落ち着いて欲しいところはある。 一番参ったのは昼飯だ。長門が弁当を持って来てくれるようになったのは素直に嬉しかったが、 問題は 「あーん」 長門よ、腕はもう治ったからもう一人で食べれるぞ。 ちなみに長門が『帰ってきた』日の放課後に治療用ナノマシンを俺に注入した。 不審に思われない程度に回復を早め、かつ後遺症を完全に防ぐ優れものだ。 なので『驚異的な早さ』で怪我は治ったのだが。 「あーん」 「……あーん」 「おいしい?」 「……ああ」 どよめく周囲。マンガ過ぎる素敵光景だ。 部室で食べるとハルヒと鶴屋さんの攻撃がすさまじく、校庭だと5、6組以外の生徒まで集まってくる。 結局クラスで5、6組の連中に囲まれて食べるのが相対的に一番マシという状況となっている。 長門に一度やめてくれといったら物凄く悲しげな表情になって以来、長門の言いなりになっている。 世の男はこうやって女の尻に敷かれるようになるんだなぁ。納得。 なお、6組では長門が俺を意識していたことは公然の秘密だったらしい。 それがハルヒと6組女子の対立原因だったようだ。 他にも長門にやられっぱなしだが、ひとつだけ勝利したことがある。 長門が「有希」と呼んで欲しい、と言った時だ。 じゃあ俺の事も下の名前で呼ぶべきだ、せめて「キョン」って呼べ、と言ったら顔を真っ赤にして口をパクパクさせた挙句 「今の話は忘れて」 と顔をそむけた。……これって勝利なのか? 以来、いまだに俺は長門を「長門」と呼びかけるし、長門は俺のことは「あなた」と呼んでいる。 長門いわく非常に照れくさいらしい。 「あなた」の方が恥ずかしくないのか? 「ともかく、乱暴な言い方をすれば我々としては涼宮さんが安定していればかまわないんで」 古泉が肩をすくめる。 「我々ねぇ。お前はどうなんだ?」 「僕ですか?」 「お前のターンじゃないのか?」 「……僕のターンですか?」 「しらばっくれんじゃねぇよ。お前、ハルヒが好きなんだろ?」 直球を受けてニヤケ顔のまんま固まりやがった。ごまかして逃げようとしてもそうはいかねぇぞ。 「………………いつから?」 「結構前からだ。夏合宿あたりか?」 本当に知ったのは長門が変えた世界とは言えない。 「やれやれ、表に現れないようにしていたつもりなんですが」 苦笑まじりに肩をすくめる。こいつまだ余裕があるな。 「長門に頼んでみるか? あいつは今幸せのおすそ分けをしてやりたい最中だ」 「遠慮します」 「試しにどうだ、ハルヒの耳元で『あいらーびゅー』ってささやくってのは?」 「や、やめてください!!」 「涼宮ハルヒはわたしたちの関係をうらやんでいる」 おお長門、来たか。あと一歩で古泉の化けの皮が剥がれるかも知れんぞ。 「わたしが伝言を伝えてもかまわない。今なら成功率が高い」 今では俺の横が長門の定位置となっていて、必ず体のどこか一部が当たる様にくっついてくる。 まるで猫だ。 古泉は集中力が乱れてゲームに勝てない、とほざいていたが元々弱かっただろ。 「な、長門さん、なんで僕が涼宮さんに告白すると決めつけてるんですか!」 長門がほんの数ミリ首をかしげる。 「違う?」 「違わなくはないさ」 「違います!」 「何が違うの?」 よう、ハルヒ。 古泉が慌てる姿も面白いもんだ。 「どうしたの古泉くん?」 「い、いえ、何でもないですよ!?」 ハルヒは不思議そうに古泉を見ていたがその視線が俺に向き、 「キョ~ン~、あんたまた図書館デートだって? いい加減デートらしいところへ連れてってあげなさいよ」 古泉をもっと攻撃しろよ。あとちょっとだったんだぞ。 「いくら有希が図書館がいいって言ってもそこはあんたが強引にセッティングしなきゃ!」 へいへい。ならハルヒのお勧めを教えてくれよ。 「なんでよ。大体あたしがデートスポットなんてわかるわけないじゃない」 「んじゃ古泉、いい所ないか?」 「なんで僕に聞くんですか!?」 「お前なら下見済みとかあるんじゃないかと」 「え、古泉くん下見とかしてんの!?」 よし、ハルヒが食いついた。 長門も目を輝かせながら古泉を見る。 「し、していませんよ!!」 「遅くなりました~ あれ? どうしたんですか?」 ああ、朝比奈さん。古泉にお勧めデートスポットを聞こうとしてるんですよ。 「デートと言えば長門さん、そろそろどうですか?」 「待って、まだ自信がない」 「なんだ長門?」 「長門さんは料理の練習をしているんですよ。キョンくんのために」 「くぁ~~ッッ!! 有希、やるわねっ! くー!」 ハルヒ、なんつう興奮の仕方だよ。 「わかった。今度の土曜日、晩ご飯を食べに来て」 「あ~~! 熱い!熱いわ! なんか腹立つ!」 なんか谷口に似てきたな。 「みくるちゃん! 対抗してあたし達だけで遊びましょ!! 古泉くんもよ!」 お、古泉、よかったな。ハルヒと一緒だぞ。 「鶴屋さんも、そうねアホの谷口と国木田も呼んで、ボウリングでも行きましょ!!」 へいへい、球投げでも穴掘りにでも行ってくれ。俺は長門にごちそうになるから。 「きー!!」 本当にハルヒは俺と長門をうらやんでるみたいだ。古泉、チャンスだ。いっとけ。 土曜日の夕方、約束通り長門は俺を食事に誘ってくれた。 「食べてみて」 これは。 「情報操作を一切使用していないから自信がない。一応おいしく出来たつもり」 テーブルに乗るメニューは唐揚げとサバの塩焼きと味噌汁にご飯。 「一般的な家庭料理というものがよくわからないので、あなたの家でごちそうになったものを参考にした」 若干不安そうな長門。 そうか、そうだよな。お前は『家庭』というものをよく知らないんだよな。 いつもお前は一人で飯を食って、一人で寝て、起きて 「駄目?」 悲しげな表情で俺の顔を伺ってきた。 「手際が悪くて少し揚げすぎた。サバも焦げてしまった」 ち、違うぞ長門!! お前に想いを馳せていたらちょっと泣けてきただけだ! 「?」 急いで唐揚げを一つ口に放り込む。 あちっ!!!! 「大丈夫!?」 あ、ああ。大丈夫だ。 「つーかうまいぞ、うん、うまい。すごいな、長門」 実際お世辞抜きで程よく味が染みてうまい。 「朝比奈みくるに教わった。まだ唐揚げと味噌汁以外につくれない。これから色々教えてもらうつもり」 そうだ、そうなんだ。 「お前は一人じゃないんだ。俺がいる。それにハルヒや朝比奈さん、古泉がいる。 色々知らないことがあったら俺やみんなを頼ってくれ。……俺が長門に頼ることの方が多くなりそうだが」 ひとりで何でも抱え込む長門、お前が正直心配だった。孤独じゃないか、と。 実際孤独だったじゃないか。家庭料理も知らなかった。 長門を抱きしめていた。 「…………?」 俺の目が何故潤んでいるのかがよくわかっていない様子。 当たり前だ。俺が一人で感極まっていただけなんだからな。 顔が近い。やっぱりここは 長門家の電話がいきなり鳴る。 思わず跳ねた。長門があわてて電話に出る。 たぶん長門もびっくりして跳ねていたはずだが、 本人は急いで電話を取りに行ったためそう見えた、と言い張るに違いない。 結構プライドが高いからな。 『やっほー有希!!』 なんちゅうタイミングだ。 ハルヒめ、見ていたのか? 『そこにキョンもいるのね!?』 しかも馬鹿でかい声、俺まで聞こえてくる。 『やっぱ有希やキョンがいないとつまんないわ。今からあんたんちに遊びに行くわっ!! 心配しないで! 食料は持ってくから! じゃ!』 呆然と受話器を見つめる長門。ハルヒは誰にでもおんなじ調子で集合をかけていたのがよくわかる。 「ハルヒがくると聞こえたが大丈夫なのか?」 「あまり……」 「わかった。一緒に片付けよう」 すこし長門が慌てる。 「いい。わたしが片付ける」 「言ったろ、長門。お前は一人じゃないんだ。俺がいる。これからも二人だ。 もし足りなかったらハルヒ達を使ってやれ。お前は一人じゃない。みんながいるんだ」 長門はなおも食い下がろうとしていたが。 「わかった。これからもあなたに迷惑をかける。よろしくお願いします」 今度は長門から抱きついてきた。 ああ、これからも一緒だ。長門、 長門家のインターフォンがいきなり鳴る。 確実に長門の機嫌は悪くなっていた。「無粋」とつぶやいていたからな。 「よし、みんな来たな。お前は一人じゃない。みんなに台所の片付けをお願いしよう」 ニヤリと笑って長門にウィンクする。 一瞬、瞬きをした長門は、ニコリとほほ笑み返した。 「お願いする」 長門有希の素顔 完
https://w.atwiki.jp/angel_in_the_box/pages/114.html
6月ギルドイベント☆ 1ヶ月間、文化祭形式のギルドイベント ・文化祭形式とは・・・ 出し物あり、展示あり、ミスコンやら(いまどきないか!?) パレードやら、露店やら、招待試合やら、もーいろいろ あなたの学校の文化祭はどんな催し物がありましたか? ・ルール 規約違反・マナー違反にならなければ何でもOK。 みんな集まって何かするのも良し。 ここのページだけで済ませるのも良し。次のページをつくるもよし。 TSユーザを巻き込んでギルドイベント化しても良し。 賞品があってもなくても良し。 どんなイベントがあるかなぁ~ワク p(^ω^q=p^ω^)q ワク ・ 月照院クラリス企画 6月13日終了しました (ブログに詳細掲載) ・ ももゆず企画 「そっくりさんでssコンテスト」 ・ 漣企画 見たてまショー 終了しました。 ・ 雨の翼企画 雨の翼を捕獲せよ 終了しました。 イベントss集 6月6日(土) 漣プレゼンツ☆アイテムを見立てて漣を騙そう対決!(?) 6月13日(土) 月照院クラリスプレゼンツ☆「ポールとネイト、よろしくね」 誰か、途中、ss、とって、ないかい? みなさん、こんなところ探してましたの図 6月20日(土) 雨の翼&リーナ・ベイカー プレゼンツ☆「雨の翼を捕獲せよ」 誰か、途中、ss、とって、ないかい? 質問・意見・他コメントはこちらまで パパ、さんきゅー!(あぁ・・・チャンチャ・・・まぁ、いいか・・・ふっ・・・どうせみんな知ってるし・・・。) -- ももゆず(欲) (2009-06-14 19 17 07) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/terachaosrowa/pages/1392.html
俺設定のキャラとかめんどくさいし、6期とかいいながら5期のキャラばっかりで、 単なる5期の続き物にならないように、どこからともなくあらわれた高嶺響が色々溶かした。 やっぱり新期はこれまでどおり前期のキャラはなるべく自重じゃなきゃね。 「ぉぎょいあういぎゃああがかが」 【南光太郎@仮面ライダー 死亡】 【南明菜@現実 死亡】 【南千秋@みなみけ 死亡】 【南菜月@ドクロ 死亡】 【喜緑さん@空気 死亡】 【三沢@空気 死亡】 【笑点のピンク@空気 死亡】 【朝倉涼子@ハルヒ 死亡】 そことは別の場所でゆたかはようやく治り、目の前の男を殺した。 カオスロワ書き手なのにゆたかを相手に油断したのが敗因だ。 【◆nkOrxPVn9c@現実 死亡】
https://w.atwiki.jp/sasaki_ss/pages/137.html
結局俺たちは方々の体でコンビニから逃げ出し、 もう一度作戦を練り直してから再度佐々木のご機嫌取りに向かう事となった。 あーくそ、なんだってんだよこりゃ。 それにしてもこれ書いてる奴は、メタル絡めないとss書けんのか。自重しろ。 「うう…頭が痛いです…」 隣の橘は最早グロッキーモードだ。 どうやらさっきのヴァイオリンを弾くM字ハゲやら、 筋トレに励む自称声域4オクターヴのガチホモやらが こいつの精神をとかちつくちて、いや溶かしつくしてしまったらしい。 それはさておき、いったいどうしたらあいつの機嫌を直せるもんやら。 なにより、そもそもなんで佐々木がこんな事になっちまったのか、 その辺を聞きださないと話にならない。 駅前の石段に座り込んで頭抱えながらうーうー唸っている橘はとりあえず捨て置いて、 俺は町の中をうろついてみる事にした。 ひょっとしたら何かヒントになるものがあるかもしれないからな。 待ってるより探しにいったほうがマシってもんだ。 団長様直伝のアクティヴ精神って奴さ。 それからあちこちをうろつきまわって、いくつか分かった事がある。 まず第一に、ここは佐々木の世界だとはいうものの あいつが全知全能ってわけではないということ。 どうやら俺や橘がどこにいて何をしているか完璧に把握しているわけではなく、 町中に大発生したデタラメパソコンに直接触れるかもしくは相当近くに行かないと 俺の今現在の位置が分からないようだ。少なくとも『今のところは』。 そういえば俺が橘のマジカルノーパソで書き込んだとき、 初めて俺の存在に気づいたような口ぶりだったしな。あのちび佐々木どもは。 そしてもうひとつ分かった事。あいつはパソコンを使って音やら絵やらを こっちに見せる事はできるものの、直接俺たちをどうこう出来るわけではないということ。 だから脇腹をナイフで刺されたり、謎の洋館に閉じ込められたりってことは とりあえず心配しなくてもいい。これも『今のところは』。 で、最後に分かったこと。出来ればこれには気づきたくなかったんだが。 …俺がさっきから2回も『今のところは』と断りをいれたのは、 『これからどうなるか分からない』からだ。 これさえなければゆっくり寝そべりながら善後策を講じる事も出来たんだが。 それに気づいたのはSOS団御用達の喫茶店。 俺が何か手がかりになるものがないかと俺がそこかしこをひっくり返していたときだ。 佐々木が手出しできないと思って、俺はは安心しきって家捜しに勤しんでいたのだが。 『ブツッ、ブツ』 …スピーカーだ。いつもイージーリスニングを流したり、 客の呼び出しをしたりするのに使われるスピーカーから、何か音が出ている。 今までうんともすんとも言わなかったのにな。 『…を…るの…ら』 誰かの話し声だ。…この声は。 『今が千載一遇のチャンスだって、何でわかんないのかな』 『チャンスだって? 戯言はやめたまえ』 『そうだよ、キョンが自分から気づくかもしれないでしょ?』 『気づくわけないじゃない!』 『待ってたら日が暮れるどころか、ワールドカップが三回はできちゃうよ』 …なにやらひどい言われようだ。 ってそれより、何だこれは? なんで喫茶店のスピーカーの向こうで佐々木が一人芝居してるんだ? 事態を把握できず立ち尽くす俺の耳に、ガチャリと入り口のドアにロックのかかる音が聞こえた。 …え、ひょっとして俺、ピンチ? 『ほーら、これでオッケーでしょ』 『ちょっと、何してんの!すぐ開けて!』 『馬鹿な真似はやめたまえ。こんな事をしても、根本的解決にはならない』 『どうせ気づくわけないんだから、同じ事じゃない!』 『…キョン、今そこにいるんだろう? 少々まずい事になった』 『すぐ鍵を開けるから、早く逃げて!』 何の話だ?そんな早口でまくし立てられても何がなんだか分からん。 俺が首を捻っていると、先ほど念入りにロックのかかったドアが 豪快な火花とともに外へと吹き飛んでいった。 オーウ、ビバ・ハリウッド。 『ボーっとしてないで早く!』 『ノロノロしてるとぶっ飛ばすよ!?』 うお、なんかハルヒみたいだぞ佐々木。 つまり、だ。 俺が今見たことを総合すると、佐々木はゆっくりではあるが あのパソコン以外のものに対しても支配力を持ち始めているという事だ。 まずいな…あんまりゆっくりはできない。 で、なぜか俺は敵意を持って追いかけられる状況にある、と。 今はこうして街中をうろうろ出来たりするが、そのうちそうもいかなくなるんだろうな。 救いなのはどうやらあのブランチ佐々木連中の中で俺をかばってくれるのも 少なからず存在する、ということか。 しかし『気づく』だのなんだのってのは何の話だったんだ? 「それはどうやら、あなたに原因があるみたいよ」 橘か。復活早かったな。 「うー…正直まだ辛いんですけど、あんまりのんびりもしていられないみたいだし」 らしいな。 「なんでそんなに他人事チックなんですか、もう! …佐々木さんの意識の一部が大本の『幹』から剥離して動き出してるみたいです。 このままだと最悪、ここに閉じ込められたままかも…」 剥離?…なるほどな。今まで直接モノを動かしたり出来なかったのは、 実は『していなかった』っていうだけだったってことか。 あいつが無意識のうちにセーブしてたんだな。 今になって思えば、一番最初に俺が見たあの掲示板の荒れようは、 佐々木の一部が暴走する前兆だったわけだ。 「しかし…正直いって、これは異常事態です。 いままでこんな事なかったのに」 いままで、ねぇ。そうだ、聞きたい事があったんだった。 「橘、ひとつ聞いていいか?」 「? なんでしょう?」 「お前、『いままで』っていったよな。 ……いつから佐々木は、こんなけったいな事をやり始めたっていうんだ」 「…最初に佐々木さんの精神に変調がみられたのは一週間ほど前。 あたしたちにこの『力』が授かったのは、三日ほど前の事です」 三日前か。いったいそのときに何があったんだろうな。 「あなたを呼んだのは、そのあたりの話を聞きたかったというのも 理由のひとつなんです。 …佐々木さんに、なにをしたんですか」 何をしたってお前、俺が加害者なのは規定事項だとでも言うつもりなのかよ。 やれやれ、そんなこといったって俺には全然身に覚えがないんだよな… 俺は自分の潔白を心から信じていたものの、何か手がかりを探せないものかと あまり性能の良くない灰色の脳細胞から記憶をたどり始めた。 最後に、佐々木と会ったときの記憶を。 その日は、あの部活なのかどうかよく分からない不思議戦隊SOSの会合が いつもより早く終わったので、俺は久々に本屋でも寄っていこうかと 商店街へ自転車を飛ばした。 さて、いざ本屋についてみると、駐輪スペースに見慣れた影が。 「佐々木か?」 一瞬びくりとして振り向いたその端正な顔は、 間違いなく中学時代において俺の一番の親友であり、 また不思議存在のお導きで最近になって再開を果たした佐々木、その人だった。 「やあ、キョン」 おい待て、これはいったい何事だ? …振り向いた佐々木は顔色が真っ青で前髪が汗で額に張り付いているという、 絵に描いたような「具合の悪い人」だった。 いったい何があったんだろうか。 「…このところ寒暖の差がはげしくてね…少し調子が悪いんだ」 俺の疑問を察したか、佐々木はそういって力なく笑った。 …そうなのか? 俺は全然そんなの気がつかなかったな。 なんつったって身近に太陽よりよっぽど暑苦しい 人間スーパーノヴァがいるせいかもしれんが。 「…ああ、彼女はいつだってプロミネンスを吹き上げていそうだものな。 僕にはちょっと、真似できそうにないよ」 別にハルヒの真似なんざして欲しくはないがな。 人間それぞれのよさってのがあるもんさ。 「…昨今流行の、オンリーワンとか言う世迷言かい? 不思議存在を身近に抱える人間にしては凡庸この上ない台詞だね」 いいだろ、別に。それにお前が何を勘違いしているかは知らんが、 俺は徹頭徹尾凡庸な一般人だぜ。 「そうか、そうだね…」 「? なんか今日のお前は変じゃないか?」 なんというか、棘のあることを言ったかと思えば弱弱しくも見えたり。 こんな不安定な佐々木を見るのは初めてかもしれない。 「なんでもないよ、変だとすればそれはきっとキミのほうだ。 …ああ、すまないけど今日は急ぐんでね、このあたりでお開きとしたい」 まあ、それはかまわんが。あ、そうだ佐々木。 「…なに?」 むう、目が怖いぞ。 「お前その右手、どうしたんだ?」 そう、さっきから気になっていたのだ、佐々木のやたら線の細い腕、 その右手の手首から肘近くまでぐるぐると無雑作に包帯が巻いてあるのだ。 しかし、どうもかばっている様子は見られなかったし、何より普通に 自転車のハンドルを握って帰ろうとしてたってのがどうにも解せない。 「!」 …俺が尋ねたとたん、佐々木は一瞬体を震わせた後、呆然とした顔でこちらを見た。 その様子は、何か信じられないものでも見たような、具体的に言うなら 部下と妻の浮気を目撃した課長のような、驚愕と絶望を一緒くたにした どろどろの釜の底みたいな顔だった。 …今日は始めてみる佐々木の表情が多いな。 くそ、こんな新鮮さなんて誰が欲しがるかよ。 佐々木はそのまま自転車に飛び乗ると、呆然としている俺を尻目に 一目散という言葉そのものの勢いで走り去っていった。 「…こんなところで、満足か?」 「んー……」 橘はレトロな探偵のように、顎に手を当てたポーズで黙り込んでしまった。 似合ってないぞそれ。 「もう、ほっといてください! ……ところで、包帯を巻いてたって言いました?」 「おう」 「…正直、思い当たる点がないわけではないんですが」 本当かよ。どれだけ名探偵なんだお前は。 「推理でもなんでもないのです。 …というより、男の子はこういう話に興味がないのが当たり前だもの」 男が、興味のない話? ますますもって分からんぞ。 「正直、あまり佐々木さんのイメージには合わないんですが… 一言で言ってしまえば、これはうr」 『余計な事言わないでくれる?』 底冷えのする声に振り返ると、近くのマンションに部屋の明かりで 「ssk」の文字が浮かび上がっていた。器用だな。それなんてラー○フォン? 『橘さん、私の名誉に関わる事をあんまり言いふらしてほしくないの』 普段は夕焼け小焼けを鳴らすしか仕事のない街灯上のスピーカーから 佐々木の声が聞こえてきた。 『やめなよ!キョンが分かってくれるのが一番だって言ってるじゃない!』 『しかし確かに、当初のルールではキョンが"自分で"気づくのが条件だ』 『こんなのノーヒントでやられて、わかるほうかどうかしてるよ!』 『さて、橘さん。多分あなたが思い至ったのは正解。 でも、だからといって現状をかき回して欲しくない。ということで、 あなたには少し枷を与えるわ』 突然、橘の口の中にどこからか飛来した青い光が飛び込んだ。 慌てて逃れようとするも、光の帯はたっぷりと飲み込まれてしまった後だ。 「た、橘! どうした!」 「ヴェ、ヴェーイ?」 「…は?」 一瞬沈黙が訪れた。 『あははは、橘さん、余計な事喋れないようにあなたの発声器官を狂わせたの。 大丈夫よ。キョンがゲームをクリアしたら戻してあげるから』 「ヂョッドゥ、ザァザァギザァン! ナルスヅンディス!」 「な、なんだってー!!!」 『んーじゃあね、キョン。私たちがキレちゃわないうちに、 一週間前様子がおかしかった原因を当ててみて』 さりげなく物騒な事を言うんじゃない。 『ナンセンスね。こんなノックスの十戒に全力で逆行しているようなロジック、 解けるわけがないわ』 『そんなのいまどき守ってる人いないよ…』 『それに、どうしても解けなかったら救済措置も用意してある、そうだろう?』 『…で、でもキョンにあんなこと話すの…その、恥ずかしくないの?』 なにやら佐々木たちは内輪で盛り上がっている。しかも電柱のスピーカーからのサウンドオンリーだ。 冷静に考えるとなかなかシュールな光景だなこれは。 『はーいじゃあ回答してくださーい!』 『おーぷん!』 もうかよ。30秒ぐらいしかたってない。いくらなんでも早すぎるだろ。 まてまて、落ち着け俺。何かしら解決の糸口があるはずだ。 じゃあここまで出ているヒントをおさらいしてみよう! 1・腕の包帯。 終了…! 「分かるかそんなもん!」 『えーもう降参しちゃうのぉ~?』 『もう少し、執念というか必死さと誠意を見せて欲しいものだけれどね』 『所詮私はあなたにとってその程度の女なのね…』 な なにをいう きさまらー! ……っておい、待て待て待て待て。どれだけ凶悪な謎解きだよ。た○しの挑戦状かこれは。 おい橘、何かヒント… 「エエドゥ、ア゙ドディスベ」 …そうだったな。すまん。俺が悪かった。 ……ってちょっと待てよ? 「橘、お前さっきのノーパソはもってるか? もしかしてあれで筆談とかできるんじゃ…」 一瞬小首を傾げた後、橘は猛然とキーボードに超高速で指を走らせ始めた。 しかし十秒もたたないうちにその動きが止まる。 「? …どうした?」 橘の頭越しに見た画面に書いてあったメッセージは… 【水着はビキニなんだ!】【俺の下はスタンド!だ】 …意味不明だった。 「…スヴィバゼン、ゴディラルボゼイゲンガア゙ヅヴィタイ」 あー、要するに書くのもプロテクトがかかってるのか。 朝比奈さんの禁則事項よりタチが悪いな。 『ねー答えられないの?』 おっと、このダディヤァーナザァンより問題はこっちだったな。 『じゃ、罰ゲームね』 罰ゲームだと?ちょっと待て、もう少しヒントがあったって 『ぼっしゅーと!』 足元の抵抗が消え、体が極めて適正に位置エネルギーを消費していくのを感じながら俺は、 「スーパーひとしくんの服が赤いのは返り血のせい」 なんていうくだらない都市伝説を思い出していた。 「キョン、ねえ起きてってば」 ん…なんだ、部屋にはいるときはノックぐらいしなさい。 「ちょっと…なに寝ぼけてるの?」 そんなんだからお前はお子様なんだよ…。ミヨキチを見習え。 「みんな、帰っちゃったよ。ほら、おーきーろー」 「…ぉが?」 机に突っ伏してた体をゆっくりと起こす。下敷きにしていた腕がちりちりとしびれた。 いつの間に寝ちまったんだ? それもよりによって教室で。 寝ぼけ眼で視線を360度パンさせる俺を見て、佐々木が心配そうに声をかけてくる。 「いや、なんでもない。ちょっと夢見が悪かったんだ」 そう、と佐々木は笑って、俺の顔を横から覗き込むようにして近づいてきた。 長いポニーテールが揺れる。 「なんかさー、あんまり気持ちよさそうだったから起こすのもかわいそうかなって」 なんか複雑な気の使い方だな。HRからこっち何十分もアサガオのように観察されてたって言うのは、なかなかきついものがあるぞ。 「大丈夫だって。見てたのは私だけだから」 それもどうなんだろう。こういうときには現代人のアパシーに喝采を送りたくなるが、 特定の一人に見られっぱなしって言うのもな。 「それよりほら、早くいこ? 校門閉められちゃうし」 確かに、外はもう夕日すらおぼろげになるほどの暗さだった。 陽が延びはじめるこの時期、これは相当な時間だと言う事だろう。 ちなみに何気なく時計を見たらなんともう六時を回りかけてた。マジかよ。 「こんな時間まで待ってたのか」 たたき起こすなり、場合によっては先に帰ってもよかろうに。 「やーだ。一人で帰ってもつまんないし、」 そこで佐々木は薄く笑うと、芝居がかった調子でくるりと一回転して、 「それに…もう待つのは慣れちゃったよ」 む…それを言われると弱いんだよな。 「でも、やっぱり結果オーライでよかったかなって。今、すごく幸せだもん」 …よくそんな顔から5100度の炎が出そうな台詞を臆面もなく言えるものだ。 なんとなく気恥ずかしくなって、俺は手早に教科書類を鞄に詰め込んで席を立つ。 「ちょ、ちょっと待ってよ」 後から追いかけてくる佐々木ににやけた顔を見られないように、俺はわざと早足で歩いた。 意地が悪いとか言うなよ? 流石にこんな不審者じみた表情、 彼女といえども見せられないってもんさ。 後ろから佐々木がやれ冷たいのだの優しくないだの文句を言ってくる。 でもそれは決して俺を攻めるような調子ではなく、谷口あたりが聞いたら恨みがましい視線を照射され続けるであろうタイプの雰囲気だった。 まったく、勘弁してくれ。これじゃ変に両端がひん曲がった口の形が直りそうにない。 まあいいさ。どうせこの校舎内には誰もいないんだ。なぜか知らんが、部活もみんな休みだもんな。教師たちだって出勤してきてるか怪しいもんだ。 そっけない俺の態度に不平不満を言い続けていた佐々木は、下駄箱のところでやっと追いついてきた。 革靴の爪先をトントンと地面に叩きつけながらしばらくフグみたいな膨れた顔で俺をにらんでいたが、 一分としないうちにプッと噴出した。なんだ失敬な。 「やっぱりさ」 「うん?」 「キョンって、なんか変だよね」 「…綽名のことなら、なにを今更って感じだがな」 「そうじゃなくってさ、ほらなんというか全体的に」 言うに事欠いてなんてことを。まあそれはきっとあれだ。 恒常的に変なものを食ってるからじゃないか? 「…そんなこと言うなら、もう作ってきてあげないよ?」 冗談だ。それにあれのおかげで助かってるからな、ほら、食費とか。 「そうは言うけどな、お前も大概変だぞ」 「そうかなあ?」 「ほら、恋愛感情は――――――」 精神病。恋愛感情なんて、精神病。 その誰が言ったか分からないフレーズが、頭蓋骨の裏に油性ペンで落書きしたように こびりついて離れない。誰だ? そんな不届きなこといったのは。 「? なに?」 「いや、なんでもない」 ほんとうに、だれなんだろうな。 何か引っかかるものを感じながら、俺は佐々木と肩を並べて坂道を下っていく。 なんだか今日のこのデイリーアスレチック坂道は、一歩歩くたびに体が地面に潜り込んでいくような感覚を覚えさせてどうも落ち着かない。 なんだろう。どうして、俺は。 あの夕日が作り物だなんて思ってしまうのか。 「ねえ、キョン」 「…どうした?」 「今、しあわせ?」 どうやら佐々木は俺の情緒不安定ぶりをしっかり感じ取っていたらしい。 ああくそ、そんな切なげな眼で見るんじゃない。 心臓が胸郭を突き破って出てくるかと思ったじゃねえか。 …本当に今日の俺はどうかしてるな。普通なら絶対しないようなことまで今なら難なくできてしまいそうだ。 「俺が、幸せ以外の何に見えるってんだ」 そう言って佐々木の華奢な腰に手を回して引き寄せる。おいそこ、甘いとか言って悶えるんじゃないぞ。 …しかしこいつは本当に細いな。このナローバンドの中に内臓がちゃんと格納できるものなのだろうか? 「キョ、キョン?」 佐々木が上ずった声を出す。ええい取り乱すな。まあ一番混乱してるのは俺だろうが。 考えてもみろ、こんなクサい台詞とアクション、いまどき韓国ドラマぐらいでしかお目にかかれないようなのを高校生男子がやってるんだぜ。 そりゃあ頭もフットーしそうになるってもんだ。 「…なんか、我ながら安いヤツだなあ、私」 「?」 俺の何の脈絡もない行動にすっかり言葉を失っていたかと思いきや、佐々木はなにやら妙に落ち着いた、 寂しげだがどこか冷めたような声で話しかけてきた。 ……というか、自分自身に言い聞かせるような口調だ。 「このぐらいで、もう心が一杯になっちゃう。 もう最高に幸せってくらいに」 …このぐらいってお前、純情な少年が勇気を出したってのに。 そんな軽口は出てこなかった。佐々木の顔は、言葉とは裏腹にとても悲しそうだったから。 まずい。それ以上喋ると。 「うれしかった。ありがとう、キョン」 なんだよ。何で泣いてるんだ。おい 「じゃ、あとはよろしく。バトンタッチね」 前を行く佐々木はぬいぐるみを抱えたままスキップでもはじめそうな上機嫌で商店街を抜けていく。 今日は日曜日、平日とは比べ物にならないほどの込みようだが、 佐々木は器用に人波を掻き分けていく。おい、少し待てって。 「ほら、なにグズグズしてんのキョン! 置いてくよ!」 …まったく、あの元気はどこから沸いてくるのやら。 8-823「奴はペインキラー-1」 8-823「奴はペインキラー-2」
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概要 使用車両:251系 初音西北の涼宮支社と小神支社とを結ぶ特急列車。 野川駅では特急『みどり』と対面ホームでの接続をとっており、桑谷方面との利便性の向上を図っている。 温泉地である荏ノ花へ向かう観光列車であり、また両支社の主要都市を繋ぐビジネス列車でもある。 停車・通過駅 管轄 路線 駅名 ダイヤ 小神 小神本線 森永 ● 波佐見 レ 柴崎 レ 結菱 レ 河原木 レ 宗像 レ 魔宮 レ 野川 ● 喜緑線 苺台 レ 涼宮 鶴宮 ● 涼宮線 博之 レ 本博之 レ 新房 レ 涼宮市 ● 涼博線 北涼宮 レ 荏ノ花 ● 関連動画 涼宮支社第六章前編● 小神支社part09後編●
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「熱血アルティメット田代砲www」 テラカオスは遊戯たちに熱を纏った光弾を何発も発射する。 さらに神人も召喚し、遊戯たちにその巨大な拳を奮う。 「罠カード発動!攻撃の無力化!!」 遊戯は罠カードを発動させ、熱血アルティメット田代砲を防ぐ。 鷹野は神人の拳を受け止めると… 「よっこいセクロス」 と言いながら神人ごと投げた。巨大な神人の体が宙を舞い、テラカオスに落下する。 さらにセイバーが接近し、斬撃を繰り出す 「うぜぇwwwwwwATフィールド展開するわよwwwうぇうぇwww」 テラカオスはATフィールドを展開し神人と斬撃を防御。テラカオスはまた攻撃に移ろうとするが、 「残念だが、貴様のターンはもうないんだよォ~ザ・ワールド!!!」 荒木が時を止める。荒木以外の物体は動かない。 「相手はテラカオスだ。念入りにやっておいて損はあるまい。」 荒木は自分が所持している多数のナイフを全て投げ、アーカードの使い魔の狗を召喚し襲わせ、 レミリアやフランドールのスペルカードを複数使い、弾幕をこれでもかというくらい出す。 そして荒木は時間が止まっている間にどこかへ飛んでいく。あるものを取ってくるために。 数秒後荒木は停止した時間の中で、そのとってきたものを抱えながらテラカオスの頭上へと迫る。 「nice boat.だっ!!!!そして…時は動きだすっ!!」 動き出した時の中でテラカオスが見たものは自分を襲う狗、大量のナイフや弾幕。 そして頭上から落ちてくるnice boat.そのもの。 「なんじゃあこりゃぁぁぁああぁwwwwwwwwwwwwwwwwww」 「無駄無駄無駄無駄っ!!!脱出不可能よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアwwwwwwwwwwwww」 その全てがテラカオスに直撃し、さらにniceboat.がテラカオスの上にのしかかる。 「なぁにこれぇ。」 この光景は闇AIBOですら呆然となるほどだった。 そして荒木はniceboat.の上に乗り、高らかと勝利宣言をする。 「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!」 だが、その時荒木の背後に潰されたはずのテラカオスが姿をあらわす。 「よくもwwwさっきはwwwwwやってくれたわねwwwwww死ねけひゃひゃひゃひゃあwwwwww」 熱血アルティメット田代砲をゼロ距離で発射する。荒木は光弾の中に消え去った。 そして神人を召喚する。怒りのせいかさっきとは比べ物にならないほどの大きさである。 神人はそのまま遊戯たちに巨大な拳を振り下ろす。 「これは本気ださないとキツいわね…」 鷹野が神人の拳を受け止める。流石は最高傑作の強化人間。 だが鷹野には弱点があった。そう、時間切れである。 時間切れを迎えた鷹野の肉体は筋肉隆々の肉体から元の体へと逆戻りしていったのである。 これではただの裸エプロンの痴女だ。 そしてその隙をみて、神人は鷹野を拳でぶっ飛ばした。鷹野はそのまま空の彼方まで飛んでいった 「次はお前よwwwwさっさと死ねwwwwうぇwwwうぇww」 そして七英雄テラカオスは武藤遊戯とセイバーを睨みつける 「あの2人は僕が倒すつもりだったのに…許さないよテラカオス。」 だが、心底遊戯はテラカオスに対して戦慄を覚えた。 なにしろさっきまで自分達が苦戦していた2人を一瞬にして葬り去ったのだから。 【二日目・2時45分/幕張メッセ外部】 【唯一神渚修造テラカミオロン(笑)@ニコロワ×神×デジモン×テラカオスロワ×現実×エヴァ×うたわれ】 [状態]神(笑)+カス(笑)+唯一神(笑)+デジモン(笑)+燃え(笑)+最後の使徒(笑)+うたわれるもの(笑)、怒り 、結構なダメージ [装備]無し [道具]無し [思考]基本:神として君臨する、カオスロワを熱い展開にする 1:喜緑、長門、シンジ、エルルゥと結婚して熱い展開にする。 2:オリキャラ(主に書き手)は皆殺し。逆らう者は皆殺し。逆らう喜緑、長門、シンジ、エルルゥは調教して熱くする。 3:目の前の遊戯どもを殺してカオスロワを熱い展開にする ※カオスロワ5の一部の死者の能力を使えます ※テラカオスの人格及び魂は能力だけ奪われて完全消滅しました 【武藤遊戯@遊☆戯☆王(テレ朝アニメver.)】 [状態]闇AIBO、セイバー展開中 、戦慄 [装備]千年パズル他 [道具]DMカード他 セイバーのカード@ニコニコ動画 [思考]基本:主催に復讐する 1:主催を殺す。だが対主催はできる限り危害を加えない 2:死者をカードに変え、主催を絶望させるための手駒にする 3:対主催を利用。彼らが喜緑を倒したら復活させて殺す 4:テラカオスを倒す 5:荒木たちとの戦いは一旦停戦 6:ニコロワでの恨みをはらす(セイバーの思考) 【荒木飛呂彦@現実 死亡確認】 【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に ぶっ飛ばし確認】
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本編SS目次・時系列順 第一日目 【第一回放送までの本編SS】 【第二回放送までの本編SS】
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autolink SY/W08-T15 SY/W08-084 カード名:温泉の長門&みくる カテゴリ:キャラクター 色:青 レベル:1 コスト:0 トリガー:0 パワー:5500 ソウル:1 特徴:《宇宙人》?・《時間》? みくる「それに長門さんがいるのも気になるし…」 レアリティ:TD U illust.- 初出:ニュータイプ 2007年2月号B2ポスター 《宇宙人》?と《時間》?持ちの1/0バニラ。 両特徴とも同作品限定に近くプールは狭いが、 《宇宙人》?ならばいつもの長門や宇宙人 長門&朝倉&喜緑が、 《時間》?ならばドジっ娘みくるや水着のハルヒ&みくるといった便利なカードが存在するため、 それらと同時に使用するならば悪くはない。